第10章 潜入 *
よく見れば、部屋の内装も勿論だが調度品ひとつとっても綺麗なものだ。机に置かれたおちょこ一つですら、きっといいものなのだろう。
「遊郭ってすごいのね…夢の世界のようだわ」
感嘆の溜息をつくと、もぞりと杏寿郎が顔を上げた。
煉「…?月奈?…あぁ、眠っていたのか」
「少しは休めましたか?旦那様」
微笑む月奈の肩に顎を置くように顔を上げた杏寿郎と至近距離で目が合う。寝惚け眼の杏寿郎が「旦那様?」と呟いている姿に少し意地悪をしてみる。
「藤葉ですよ旦那様。遊郭にきて眠ってしまうなんて余程疲れているのですね」
着物の袖で口元を隠して悲しむフリをしつつ、杏寿郎を見ると再び顔を俯かせて表情が分からなくなっていた。
(からかい過ぎたかしら?)
そう思った矢先、何かが足に触れた。
それが杏寿郎の手と気付いたら、恥ずかしさで一気に顔が赤くなる。
煉「それは悪かったな藤葉。確かに失礼だった」
「じょ、冗談ですよ杏寿郎様!申し訳ありませんでした!揶揄い過ぎました!」
身じろぎすると、腰に回っている腕に更に力がこもった。
足に触れていた手はいつの間にか月奈の頬に添えられている。
煉「…俺を揶揄うとは、遊女でなくても悪い女だな」
「本当に申し訳ありませ…んっ!?」
ぐじゅり、と耳元で音がしてビクリと肩がはねる。
続く水音に、耳を舐められていると気付いた月奈は体から力が抜けていく。
「あっ!…やだ…んぅ…!」
肩をすくめて快楽から逃れようとするが、頬に添えられていた手は顔を固定するように首から顎を掴んでいる。
煉「…いい声だな、部屋に響く…」
耳の感覚が研ぎ澄まされている状況で、杏寿郎に囁かれゾクリと背中が震えた。体を縮こまらせて布団で声を抑える月奈、しかし杏寿郎の体に包まれている状態で逃げ場がない。
「…っ!?」
布団の中で着物の裾を払われ立てていた膝から太ももを撫でられると、月奈は怖くなりボロボロと涙を瞳から溢れさせた。
煉「…月奈、俺も男だ。あまり悪戯に揶揄うのはよしてくれ」
その涙を見て、杏寿郎は着物の裾を直して抱きしめる。
「すみません…こんなこと…初めてで。杏寿郎様が悪いのではありません。度がすぎた私が悪いのです」