第10章 潜入 *
その先の色めく街に誘う様に立つ、立派な大門を超えるととても華やかな街並みが広がっていた。
(花街というだけあって、すごい…)
ズラリと並び立つ建物の入り口には提灯が下げられ、暗くなり始めた今の時分は灯り始めてきている。道行く男性は格子越しに女性を見ていた、今日の相手を探しているのだろう。
天元の後ろをついていく月奈は、少し猫背になり人目を避けるように歩いている。売られる女は堂々としない、おどおどしながら付いてこい。そう天元から言われた月奈は忠実に守っていた。
宇「この見世で数日頑張ってくれ。鬼の気配があれば鴉を飛ばせ。近くに鴉を待機させておく。毎日の報告は煉獄が通うようになるから、そこで報告しろ」
ボソリと耳打ちした天元は、頷いた月奈の肩を抱き見世の暖簾をかき分けて見世へと入っていく。
宇「煉獄、見世に今日から隊士が入った。ご内儀がすぐに客を取らせるって言ったからには、数時間後には準備が完了するはずだ」
煉「承知した!…が、何故俺がこんな役をやらねばならんのだ」
屋根の上から遊郭の街並みを見下ろしていた杏寿郎の隣に天元が腰を下ろす。よほど不服なのか、眉根を寄せて頬杖をついている。
宇「仕方ねぇだろ、お前は派手に目立つから女衒は出来ないしよぉ。隊士をきちんと守ってくれよ」
ーその隊士が月奈だって分かったら、俺生きて帰れるか分かんねぇな…
煉「それはもちろんだ!しかし、この眼帯が邪魔なんだが…」
宇「お前の目が派手に目立つからしておけって!外すなよ!」
杏寿郎の左目には黒の眼帯が付けられている。外そうとする杏寿郎の手は天元によって抑えられていた。ここ数日家に帰ることが出来ていない杏寿郎は、確実に不機嫌だ。
ーもしかしたら、俺だけじゃなくて月奈も危ねぇんじゃ…
ふと過ぎった悪い考えに天元は頭を振る。任務は任務だ、お館様が許可を下ろしたのだから煉獄であろうと文句は言えない。大人しく客役をこなしてさっさと帰ろうぜ、と声をかけて肩を叩くと、それを合図に杏寿郎は街へと降りて行った。
ゆっくりと他の見世を見るフリをして目的の見世へと向かっていく杏寿郎の背中を見送りつつ、溜息をついた。