第2章 忘却と願い
そのような体験をしていて、記憶があるのならば目覚めた時に錯乱するだろう。
しかし、月奈は今も穏やかに生活している。
し「やはり、鬼に襲われた記憶は無くなっていると考えられますね。でもご家族に関しては、記憶が混乱しているのでしょう。目の前で鬼に襲われていくところを見ていたとすれば…あまりにも残酷な記憶です、今の月奈さんの穏やかさで覚えているとは考えられません」
ですから…としのぶは月奈にとって、救世主であろう二人に静かに告げた。
し「月奈さんに会わせることは出来ません。思い出した時、どうなるか分かりません。自害も…ありえますから」
たった2週間、その短い期間しか関わっていないが、しのぶにとってもアオイにとっても妹のように思い世話をしてきた。
家族を鬼に喰われるなんて記憶は思い出さないほうがいい。思い出して欲しくない。
これからを幸せに生きられるならそれでいいじゃないか、と。
この世に、鬼によって家族を殺された子供は大勢いる。それら全てを助けられるなんて驕ることはしない。
でも、せめて目の前の少女だけでも守りたい。
しのぶとアオイはその一心だった。