第9章 穏やかな時間
良く晴れたある日、月奈は街の甘味処にいた。
目の前にはあんみつが入っていた漆器が大量に積み上げられている。
蜜「月奈ちゃんはもう食べないの?この甘味処のあんみつは美味しくてついつい食べ過ぎちゃうわ~」
「あ、もうお腹いっぱいで…蜜璃さんは本当によく食べられるのですね、驚きました」
美味しいわぁ、とニコニコあんみつを頬張る蜜璃は幸せそうで、ついこちらも微笑んでしまう。蜜璃の横に座るしのぶは優雅に抹茶を飲んでいる。
し「さて、月奈をここに呼び出した理由ですが、最終選別突破のお祝いも勿論ですが、聞きたいことがありまして」
「聞きたいこと、ですか?」
スプーンを盆に置いてお茶を啜ると、月奈は蜜璃からしのぶに視線を移す。
蜜「あれ?私はお祝いとしか聞いてないけれど、他に何かあったのしのぶちゃん?」
どうやら蜜璃も知らない話のようで、月奈と顔を合わせて首を傾げている。いったいなんだろう、と思案顔をする月奈にしのぶは声をかける。
し「隊服はもう支給されましたか?」
「隊服ですか?はい、部屋に置いてありますが」
先日、風邪が完治したところでお館様から呼び出しがあった際に隊服を頂いた。その時に宿舎のことも聞いたが、返事は少し待って貰っている。必ずしも宿舎で集団生活をしなければならないという訳ではないと聞いたら、やはり自由に生活できる今のままがいいと思ってしまうのは当然だ。ただ、このまま煉獄家にお世話になり続けることも良くないとは思うが。
蜜「隠の隊服が届いたのね!月奈ちゃんの隊服姿を見てみたいわ!」
し「そうですね、私も見たいですね。では煉獄家にお邪魔しましょうか」
「はい?隠の隊服はお二人ともご存じでしょう?今更見る必要ありますか?」
そうじゃないわ!と蜜璃が体を乗り出して勢いよく否定する。こういう所は杏寿郎を思わせる、やはり師弟関係だと似てくるのだろうか。
蜜「月奈ちゃんが!着ている所を!見たいのよ!」
「…あ、ハイ…分かりました」
他の隠と何も変わったところは無いだろうに。と思いながらも、崩れそうな漆器が気になって頷いてしまった。