第9章 穏やかな時間
千「兄上!月奈さんは熱があるようです!俺は水枕を用意してきます、布団へ運んでください!」
頷いて月奈を抱き上げた杏寿郎は、部屋に敷いてある布団に寝かせ上から毛布と掛け布団をしっかりかけてやる。
熱が出ている影響なのか、体が震え呼吸も苦しそうな月奈の頬に触れると薄く目を開いた。
「……きょう、じゅろう、さま…?」
煉「…熱があるようだな、風邪だろう。気付かなくてすまなかった」
「…いえ、てっきり…杏寿郎様のこと…考えたからだと、思っ…」
煉「…俺のこと?」
聞き返したが返事は無く、覗き込むと月奈は眠りに落ちていた。水枕と水を入れた桶を持って千寿郎が部屋に戻ってくると、杏寿郎は千寿郎に言われるまま手伝いをすることになった。
ー俺のことを考えたから…体調が悪くなったと…!?
忙しく指示を飛ばす千寿郎に従い、杏寿郎は動き回っていたが先ほどの月奈の言葉を頭から消すことが出来なかった。途中で途切れた言葉だけを捉えれば、確かにそう聞こえるだろう。
千寿郎は、突然落ち込んだ兄を心配気に見つめながら、先ほど注意をし過ぎたかと考えた。
千「あの、兄上。お疲れの様子ですので、どうぞお休みください。月奈さんの看病は俺が…」
煉「あ、あぁ。別に疲れている訳ではないんだが…俺を見てから体調が悪くなったと月奈に言われたから、部屋に戻るか…何かあったら呼んでくれ…」
千「はい?…兄上を見て体調が?…分かりました。お休みなさい」
杏寿郎が落ち込んでいるのは、月奈が言ったという一言が原因だったと分かった千寿郎は、でも何故?と首を傾げた。
ー先ほどの兄上のやり過ぎた行動が原因ということかな?でも、そんな素振りは夕飯の時には無かった。俺がここに居なかった時の話は二人しか分からないし、考えても仕方ないことか。
部屋を去っていく杏寿郎の後ろ姿を見送って、千寿郎は月奈の額の濡れ手拭いを濡らし直した。きっと疲労からの熱だろうと本人も言っていた。
千「まぁ、兄上にはいい薬でしょうか。少し落ち着いて頂かないと…月奈さんも発言は慎んだ方がいいかと思いますが…」
千寿郎は溜息をついて、眠る月奈傍らに座り本を開いた。