第9章 穏やかな時間
ー煉獄さんが守りたいのは月奈なのですが…
し「…そうですね。優しい方ですから、月奈が望むなら守ってくれるのでは?」
「そんな滅相もない!もう十分に守って貰っていますから。杏寿郎様も私ばかりに構っている訳にはいかないでしょう!」
手を顔の前でぶんぶんと振って月奈は笑う。
では、湯殿お借りしますね!と脱衣所に続く扉に入っていく後ろ姿を見送ってしのぶは溜息をついた。
ー鈍い。…いや、一人で生きていくつもりだから誤魔化しているだけ?
し「あの二人は難儀なものですね。まったく…」
そう呟くとしのぶは廊下を歩いて、とある一室に向かった。
その一室から響き渡るのは、アオイの怒鳴り声と甲高い叫び声。耳に響くというかつんざくというか、とにかく汚い高音だと周囲の病室からは苦情が入っている。
ア「何度言えば分かるのですか!?薬を飲んで日光を浴びていれば治るとお話していますよね!」
?「薬が苦いんだよぉお!絶対俺の薬だけ苦く作っているんでしょぉ!??」
病室に入ると、金髪の男の子が布団に包まって叫んでいた。
先日の任務で手足が蜘蛛化しかけていた為、治療の薬を処方したのだが毎日毎日このように飲むことを嫌がって叫んでいるのだ。
し「善逸君、貴方は蜘蛛になりかけていたのですから、その薬を飲まないと手足が縮んだまま戻らなくなりますよ」
炭「しのぶさん!こんにちは!」
し「はい、こんにちは炭治郎君。ケガの具合は如何ですか?伊之助君はまだ喉が痛みますか?」
炭治郎はニコリと微笑んでから、伊之助と呼ばれた人間に視線を向ける。ベッドに横たわるその人物は、イノシシの被り物を被っており顔が分からない。
伊「……ダイジョウブ、キニシナイデ」
発した声は驚くほどガラガラの声。しのぶが診療した時に、強い力で圧迫され喉が傷ついていたと診断した。義勇が助けに入った時に、傷ついた喉で大声を上げたと後から聞いて「それがトドメですね」としのぶが少し怒ってしまってから、しょげていた伊之助を更にしょげさせていた。
「あの…しのぶさん。ありがとうございました。杏寿郎様をお待たせしているので、そろそろ…」
廊下から少し顔を覗かせた月奈は、湯上りで少し頬が上気している。しのぶが月奈に歩み寄る前に、素早く月奈の手を取ったのは金髪の少年だ。