第9章 穏やかな時間
し「隊士の名前は竈門炭治郎君で、鬼は炭治郎君の妹の禰豆子さんです」
「妹?…鬼の妹、ですか?」
煉「元々家を襲われ家族を亡くしたと聞いた。その時に人間だった妹が鬼になったようだ」
月奈は自分の家族を思い浮かべる。月哉が鬼として生きていたなら…と。
(それはそれで辛いが生き残ってくれたことは嬉しいと感じるかも。けれど、他の鬼と同じように首を切る覚悟は出来ないだろうなぁ)
煉「最終選別が終わったばかりで、まだ神経が過敏になっているようだな!鬼の気配をすぐに感じ取るとは感心感心!」
ポンと肩を叩き杏寿郎は笑って見せた。
久しぶりに見るその表情に、月奈はホッと緊張を緩めて微笑んだ…すぐ後にハッという表情になりしのぶの後ろに隠れる。
煉「?どうした?」
「あの…しのぶさん。湯殿お借りしてもよろしいですか?」
小声でしのぶに問いかける月奈に、杏寿郎は首を傾げている。しのぶは、少し恥じらう月奈の表情を横目で見て、少し驚いた後に微笑んだ。
し「煉獄さん、少しお待ちいただけますか?月奈と一緒に煉獄家へ帰られますよね」
煉「うむ。待つのは構わん!月奈、家で父上と千寿郎が待っているぞ、帰ったら元気な顔を見せてやってくれ」
「は、はい!もちろんです!」
しのぶに手を引かれて、杏寿郎を置き去りにして廊下を歩いていく。湯殿に真っすぐ向かっていることは分かったので、一安心する。
「すみません、しのぶさん。寝ちゃったこともですが、汚れたままお邪魔してしまって…」
し「それは構いませんよ、任務中に搬送される隊士達はもっと酷いですから。…ところで」
湯殿の扉の前に到着した途端に、しのぶは月奈に勢いよく振り返った。
し「月奈は…煉獄さんをどう思っていますか?」
突然の問いに一瞬驚いたが、すぐに真面目な表情に戻り月奈は考える。
(実弥様に感じるような兄弟というものではなさそうなのよね。とすると、恋慕…いや、そんなおこがましいこと…)
「どう言えば良いのでしょうか?私を理解して包み込んでくださる優しい方、というところでしょうか。あのような男性に守られる女性は幸せなのでしょうね」
少し寂しそうに笑う月奈に、しのぶは口から飛び出しそうな言葉を飲み込んだ。