第8章 最終選別
月奈は枝から枝へ飛び移りながら、悠然と道を歩く雅雄を見下ろす。その姿は分かっていても女性にしか見えない。
(雅雄様がどれほどの手練れなのかは今日分かる。それにしても、こちらがドキリとするくらいに整った顔立ちね)
雅「…月奈さん、視線が痛いのですが。それと、一体…鬼が向かってきたようです」
見つめすぎていたようで、雅雄は真っすぐ前を見つめたまま苦笑している。すみませんと呟いて、その視線の先を見ると確かに鬼が向かってきている。
「よく見えますね。まだ少し先なのに…それにこちらにまだ気付いていない様子ですが」
雅「見えてはいませんよ。なんとなく、感じるといったところですね。…あぁ、もう一体。おっと」
早い到着ですね、と横から飛び出してきた鬼の攻撃を受け止めた雅雄は、いつの間にか鞘から刀を抜いていた。受け止めた際の音が周囲に反響したからだろう、先ほどの鬼がこちらに向かってくる姿が見えた月奈は木から飛び降りる。
こちらに背を向けて雅雄に手を伸ばす鬼。その背中を両手に着けた手甲鈎で裂くと、驚いた鬼が背を仰け反らせた。
「雅雄様、先ほどの鬼が…」
着地した月奈が言う前に、雅雄に襲い掛かっていた鬼の首が飛んでいた。雅雄はそれを見送ることなく次の鬼を向かい撃つように前へ走り出していく。
雅「月奈さんは木の上に戻ってください。鬼が増える前に」
ニコリと微笑まれて、慌てて木の上に戻る月奈は、日中に話したことを思い出した。
(緊急の場合以外、己の安全を確保しておくこと。私が手負いになれば足手まといどころか、雅雄様に危険をもたらす可能性がある)
でも先ほどの行動は緊急だ、と誰にともなく言い訳をして雅雄を見ると、既に刀を鞘に納めていた。鬼の体はボロボロと崩れて灰のように舞って消えていく。
「雅雄様、ありがとうございました。余計な手出しをしてしまい申し訳ありません」
いや助かったよ、と笑う雅雄は本当に優しい男だ。
話を色々としたからなのか、月奈を名前で呼んでくれるようになった。齢は18と聞いていたから、さすがに月奈が雅雄を名前で呼ぶのは躊躇われていたが、雅雄は気にしなくても良いと言ってくれた。