第8章 最終選別
雅「へぇ、いい場所を見つけたんですね」
木の上に上がった雅雄は感心する。歩きながら聞いた身の上からは想像できない野営能力だったからだ。
本当に良家の子女?と思うほどに逞しい。
「稀血ですから、お嬢様としてずっと生きていくことは出来ない事を想定して両親から教育されていたようです」
戦い方は引き取って貰った鬼殺隊の人間に教えて貰いましたが、と後から上ってきた月奈の手を取り引き上げた雅雄は、月奈の手のマメに気付いた。
ー普通のお嬢さんとは違って肝が据わった女性のようだな。残す六日間、楽しくなりそうだ。
鍛錬を積んだと思われる手に、女性の儚い弱さは無く、生き残るという強い意志がこもっているように感じられた。
二人で今日の目標地点を設定してからは、他愛もない話をしていた。
雅雄の容姿が端麗で、長い髪を一つに結い上げているから女性的に見えていたと話すと、雅雄は笑って言った。
雅「背丈に恵まれなかったからね、女性のような見た目で実は男性であることを知ると皆驚くよ。俺は相手が女性だと油断する鬼もいることを知ってから、この容姿で居るんだ」
先ほど並んで歩いた時に思った、背丈は月奈よりやや高いくらいだ。女性として十分通せる。
不便はないよ、と微笑む雅雄に月奈は、強い人だなと思う。
「そういえば、育手の方とはどうやって知り合ったのですか?」
雅「俺の育手は父だよ。代々鬼殺隊の隊士として働いているから、俺も例に漏れず最終選抜に来たんだ。だから日輪刀も借りている」
呼吸は一般的な水だよ、と刀を見せて貰うと鞘からは確かに薄い青色に色付いている刃が姿を現す。
(呼吸というと、蝶屋敷で少し聞いたな。冨岡様は水、しのぶさんが蟲、杏寿郎様が炎だった)
「私は剣士でもなく、呼吸を極めることも出来ていないのですが、呼吸を会得することは大変なのでしょうね」
納刀して雅雄に渡しながら微笑むと、苦笑された。
呼吸も会得せずにこの場で生き残る水橋さんが凄いんだけれどね?と言われたが、嫌味ではないと分かるので、褒められたと頬が緩む。
雅「そろそろ日が沈むね…今日も頑張って生き残ろうか」
木々の隙間から見える日差しが赤く色づいて山に沈み始めていた。山は日が翳って闇が早く訪れるので、再度目標地点を確認して立ち上がった。