第8章 最終選別
し「だからといって…」
煉「許されることではない!それは分かっている。だから、自分を律することが出来ていないと反省しているのだ。このまま、俺の腕の中に留めておけたら、とあれから考えるばかりでな…。俺の悋気で月奈には悪い事をした」
腕を組んで視線を落とす杏寿郎は苦笑している。
し「いっそ、煉獄さんが嫁取りしてしまえば解決では?…まぁ、年齢的には婚約者と言うことになるのでしょうか。それであれば最終選別に行かせることもなかったでしょう」
煉「それは今の月奈は良しとしないだろうな。胡蝶、君も存外突飛な考えを思いつくものだな」
し「私達はいつ死ぬか分からない仕事ですから、その瞬間瞬間を大切することが大事と思います。月奈に気持ちを伝えることくらいは許されたのでは?」
ーもしこの気持ちを伝えて、月奈が俺に振り向かないと分かったら俺はどうなるのだろうか。
そう怖気づく本音と、月奈の行く先を邪魔するのは本意ではないという建前がずっとせめぎ合っている。
煉「俺が月奈の目指す未来を遮るわけにはいかない。…それに、俺をはっきりと意識するまでは捕まえはしない」
視線を上げて微笑む杏寿郎の目は、獲物を泳がせて楽しんでいる獣の目。行動に出たのは、隠しきれない悋気や捕まえたい気持ちが表れたのだろう。
し「…月奈さんがさすがに可哀そうになってきました。煉獄さん、いじめるのは程々にした方がよろしいですよ。やり過ぎると逃げちゃいますから」
うむ、留意しよう!と言って先を歩いていく杏寿郎の背中にしのぶはボソリと呟いた。
し「本当に分かっているのでしょうか。末恐ろしい、厄介な人に好かれたものですね」
しのぶは月奈を思い浮かべて、心の中で合掌した。