第8章 最終選別
し「煉獄さん、今日は任務だったのですね」
煉「胡蝶!うむ、今から家に帰るところだ!」
月奈が藤襲山で朝日を見ている同時刻、杏寿郎としのぶは任務を終えて帰宅の途についていた。
二人は羽織ひとつ汚さず疲れも無いように見える。
し「月奈は無事に一日目を乗り越えたのでしょうか。最終選別のことで分かる限りの知識はお伝えしましたが…」
煉「月奈なら大丈夫だ!俺達が信じてやらねば!」
しのぶは真っすぐ前をみて声を張る杏寿郎の表情を伺うが、いつも通り何を考えているのかよく分からない表情だ。
しかし、月奈が最終選別に向かう少し前からぼんやりとしている時間が増えたと千寿郎から聞いていた。
その時期と言えば…としのぶは少し昏く微笑む。
し「煉獄さん、月奈が最終選別に向かう数日前に何かありましたか?」
煉「む!?…いや、何もない!」
し「…何故か間がありましたね?まぁ、私は月奈から聞いているので何があったのかを知っていますが」
ー同衾されたと聞きましたよ。どういうことなのでしょうか?
問いかける声音は普段通りの穏やかな声だが、怒っているのはさすがの杏寿郎も分かっている。
前を見たまま立ち止まった杏寿郎は、突然しのぶに向き直った。
煉「その件に関しては千寿郎にも父上にも怒られたな!…俺は如何に狭量な人間か、自分を律することが出来ないのか痛感している!」
し「はい?それがどうして同衾などという話に繋がるのでしょうか?」
眉を顰めて呟くしのぶに、杏寿郎は苦笑して「つまりだな…」と続ける。
煉「俺は例えどれだけ幼くとも、近しい人間だろうとも月奈に触れる男を許せないんだ!ましてや月奈は大人しく守られている女ではないからな、俺が守ると言っても聞かないだろう」
し「あら。ご自身の抱く恋慕にようやく気付かれたのですね。これだから無自覚は恐ろしいのですよ。確かに月奈は誰かに守られるより、自分が守りたいという考えですからね」
煉「よもや!知っていたのか!むぅ…不甲斐ない!…月奈は体の傷のことや稀血ということで、この先一人で生きていく覚悟を幼い頃にしてしまったと言っていたからな。他人の為に自分の命を簡単に投げ出しそうで、不安になったのだ」