第8章 最終選別
どのような鬼がいるかは知らされていないが、地を走れば会敵しやすいだろう。そう予想すると、月奈はなるべく葉が生い茂った木に昇った。
闇に包まれている山の中は、不安を煽る。
体を縮こめて息を潜めると、周囲の音が聞こえる。
どうやら、既に会敵した受験者が複数いるようだ。
助けに行きたい、そう考える自分を戒めるように膝を抱く腕に力を込める。
(自分が助けに行っても力にならない。稀血を安易に使った結果どうなるかはもう知っているんだから、簡単には使えない)
あの時のように、傍に誰かがいるわけではない。そう思うと急激に心細くなるが、誰かに助けて貰えることを当たり前と考えていてはこの先も生きていけない。
(そろそろ移動しようかしら。会敵した人たちの声が聞こえなくなった…無事なのかな…)
伝っていく木を考えながら、周囲の音に気を配ってみるが状況までは分からない。木を移ろうと足に力を入れたところで、下から聞こえる声に肌が粟立った。
鬼「…この辺で人間のにおいがしたんだけどな。どこ隠れていやがる」
キョロキョロと周囲を忙しなく見回しているのは、男の姿をした鬼だ。すんでのところで、飛び出しかけた声を我慢し再度息を潜めると、鬼は月奈の向かう方向とは逆に歩いていった。
(人間の匂い…これは誤魔化しようがない。なるべく最低限の移動にしたほうがよさそうね)
7日後に藤の花にぐるりと囲まれたこの空間から抜ける。そのためには少しずつでも中心から外側に向かっておかないと、と月奈は考えた。
止まっては息を潜め、移動しては止まって。周囲に注意しながら繰り返していると、日が昇り始めたのが木の隙間から見える。
一日目の夜を超えた証だった。
「夜が明けたのね。ようやく一日か…」
完全に日が昇ったことを確認すると月奈は木から下りて、山道を歩き始めた。
夜が明けたからと言ってゆっくり休むことは出来ない。鬼が居ない時間にできることをしてしまわねば、夜を超えられない。
「食料は持ち込んだもので足りるようにしないと。水は、補充できる水場を探そう」
仮眠も取らなければ。やらなければいけない事を考えると結構あるもので、月奈は溜息をついた。