第8章 最終選別
(この人達…全員選別を受ける人よね…)
月奈は最終選別の会場となる、藤襲山に到着するとまず人の多さに驚いた。政府非公認の組織だから、それほどに受ける人数は多くないと思っていたのだ。
ざっと見ただけでも二十人近くの人が集まっている。赤い柱がいくつも立つ広場には、中央に提灯を持った子供二人が立っている、その両脇には山へ続く石段が見える。
頭上には幾度と重なって咲き誇る藤の花。
「狂い咲き…家に植えていた藤と一緒だ…」
時期外れの藤の花は、空気まで藤色に染めてしまうような幻想的な空間を作り出していた。これだけの藤が家で咲いていたならば月奈がここに来ることもなかっただろう。
?「皆様、今宵は最終選抜にお集まりくださってありがとうございます」
黒髪のおかっぱ姿の子供がしゃべり始めると一斉に皆が視線を向ける。次いで白髪の子供が簡潔に突破条件を話す、鬼のいる山の中で七日間を生き抜くこと、ただそれだけ。
他人の命を守ることが条件ではなく、自分の力で生き抜くことを考えるように。
?「それでは気を付けて行ってらっしゃいませ」
二人の子供のお辞儀を横目に、次々と受験者が山に続く石段を登っていく。月奈は深呼吸を一つして、石段に足を掛けた。
七日間に渡る最終選別が始まった。
(まずは一番早く日が昇る東へ向かう。朝になったら拠点をどこかに作って水を探そう)
山の麓に近い場所で住んでいたが、長期間を山の中で過ごしたことはない。しかし、食料よりも水を確保することが必要だということは幼い頃に聞いたことがあった。
し「ケガは特に注意してください。稀血を流せば周囲の鬼が群がってきます」
出発前にしのぶに注意されたことは、一番重要なこと。追う鬼が増えれば逃げ切ることが困難になることは確実だ。
些細な傷でもすぐに止血をしてその場を離れることを優先する。
(不案内な山の中はあまり動き回らないようにしないとね)