第7章 試練
「…どう、なさったのですか…」
ぐっと月奈の肩に頭を押し付け、長く息を吐いた杏寿郎に問いかけるが返事はない。
ーまさか、他の男に触れられても嫌な顔一つしない月奈に狂気じみた考えを持つなんて。年上として不甲斐なし。
杏寿郎の行動の理由が分からないうえに、俯いたまま顔を上げないことを不思議に思いながらも、黄色のふわふわとした髪に頬を寄せる。
(…少年に頬に接吻されるほど隙があることを怒っている?確かに、気を抜いているのは事実だけれど…でも子供がしたことだし。そういえば実弥様の時も千寿郎さんの時も…でも何故?)
月奈は考えてみたが、まだ15歳の縁談という言葉すら現実味の無い齢の少女にとって、分かるはずもない。
「お風邪を召されますよ。お布団で休んでください。…杏寿郎様?」
考えることを止めた月奈は、相変わらず応答の無い杏寿郎の髪の毛を耳にかけてやる。すると閉じていた瞼がゆっくりと開き目が合った。
煉「…そうだな、寝床に行くか…ふぁあ」
大きく欠伸をして立ち上がった杏寿郎は、月奈を脇に抱える。
「え!?ちょっと杏寿郎様!?私は部屋に戻りま…ぅぶっ!」
じたばたと手足を動かす月奈を布団に下ろした所で、杏寿郎自身も布団に倒れこむ。掛け布団を引っ張ると月奈は顔まで覆われてしまい言葉を遮られてしまった。
(寝ぼけてらっしゃる…?でも、これは同衾という状態では…!?)
なんとか脱出しようとするが、完全に眠りに落ちてしまった杏寿郎の腕はガッチリと月奈を抱きこんでしまっている。寝息を立てる杏寿郎を月奈は困り顔で見つめていたが、疲れているであろう杏寿郎を起こすこともできず諦めるしかない。
(同衾なんていけないことだけれど、温かくて安心する…)
温かさを求めてすり寄ると、ギュッと抱き直される。
先ほどまでの気の昂りが嘘のように穏やかになっていくと、月奈はゆっくりと眠りに落ちていった。