第7章 試練
煉「君は稀血だからな、常人よりも危険に晒される。鍛錬の時期も短い、上手く立ち回ることなど出来るはずもない。それでも、今日は少年と千寿郎の命を救った」
それは鍛錬の成果だろう。と杏寿郎は思う。
泣いて逃げるしかなかった少女が、自分を囮にして鬼に立ち向かったのだ。倒す術は無いと分かっていながら。
「ですが…一歩間違えば…全員が…」
煉「それは、誰にでも言えることだろう。俺も…柱も隊士も、救えなかった命はいくらでもある。父上ですらそうだ」
「違う、違うんです。…色んな方が鍛錬をしてくださったのに…成果が出せない自分が嫌になって…鬼に遊ばれて…いつか喰われたら私は何の為に…」
(あぁ…皆に失望されるのが怖いんだ…鬼殺隊は何もできない人間が居ていい場所じゃない。人里に放り出されるのが怖いんだ…)
煉「月奈。自分を追い詰めるな、今日の君が人を救った、鍛錬をしていたから助けが来るまで耐えきれた。着実に力になっている。誰も君を見捨てない」
顔を上げた月奈の頬を両手で包み、杏寿郎は微笑む。
「…杏寿郎…様…」
不安に瞳を揺らす月奈の表情に、杏寿郎はゾクリとする。
ーこのままここに閉じ込めておけるならどれだけいいか。いっそ、最終選別になど行かずに俺に守られていればいい。
「…取り乱して申し訳ありません。…杏寿郎様?」
煉「そういえば…」
スルリと杏寿郎の手が頬を撫でる。
少年に接吻された頬はこちらだったか?
と静かに問われて、え?と声を漏らした瞬間に頬に柔らかな唇の感触が伝わる。
顎を親指と人差し指で挟むように固定された月奈は、視界に杏寿郎の髪の毛がみえるだけだ。
煉「本当に君は隙があり過ぎて困るな…、やはり閉じ込めてしまおうか…」
「杏寿郎様?…っ!」
頬に感じていた熱が、首筋に移り月奈の体がビクリとはねる。