第7章 試練
煉「俺は声を聴いて分かったがな。そうでなかったら直前まで分からなくて攻撃態勢を取っていただろうな、声を出してくれて助かった!」
ハハハと笑う杏寿郎を見つめ、もし実弥と杏寿郎がこの場に任務で居なかったらと考えてゾッとした。
自分は果たして逃げ切れたのだろうか。いや、最初から距離を詰められていたら逃げる前に…
(喰われていた。それだけならまだしも、力を得た鬼に千寿郎さん達まで危険な目にあわされていたかもしれない)
千「月奈さん、大丈夫ですか?歩けますか?」
落ち込んでしまいそうになったが、これ以上二人に心配はかけられない。笑顔で「大丈夫」と答えると、煉獄のお屋敷への帰路についた。
お屋敷に戻ると、槇寿郎が玄関で出迎えてくれた。全員が大きなケガもなく帰宅したことに安堵したのか、遅いと一言だけ言って中に戻って行く。三人は顔を見合わせて微笑むと、槇寿郎の後を追った。
食事と湯浴みを終え、部屋で武器の手入れをしていると静かな空間で余計なことを考えてしまう。
「…かっこよかったなんて…何もできなかったのに…」
少年に接吻された頬に触れて、眉を顰める。
あの時、鬼が稀血に惹かれなかったら千寿郎と少年は攻撃されていた。襲われる前に千寿郎から言われた言葉が頭に浮かぶ。
「鬼を倒す術がない…それでも立ち向かうのは勇敢ではなく無謀なのね」
自己防衛など通用しなかった、ただ遊ばれていただけ。
成長しているなんて、思い上がっていただけだと痛感した。
(悔しい。成長できていないことも、鬼を前にして逃げることすらできなかったことも)
ゴトリ、と手甲鈎を机に置き立ち上がると、月奈は台所へ向かった。寝静まった廊下は少しヒヤリとした空気が流れている、鬼と対峙したからなのかイライラして眠れない。
白湯を飲もうと準備していると、突然声を掛けられビクリと肩を震わせる。
煉「白湯か、気分が落ち着かないのか」
「杏寿郎様…」
横から顔覗き込まれ一瞬目が合った瞬間、杏寿郎は苦笑する。月奈の目は、普段の穏やかな瞳ではなく怒りの色が濃い。
「なんだか落ち着かなくて…眠れないのです」
苦笑する月奈は杏寿郎と目を合わせず、ただ沸騰を待つ水を見つめている。
風呂上りの濡れた髪を拭きながら、杏寿郎は月奈の横顔を見る。