第7章 試練
「どこか…撒けそうな場所を…」
震える足を叱咤して、周囲に注意しながら走り続ける。鬼とは一定の距離を保っている。
(…距離が詰まらない、私の走力が上がったから…?)
不思議に思った瞬間に気付いた。
苦笑して呟く。
「遊ばれてるのね、逃げてみろと?」
体力は無限ではない、いつか捕まるだろう。遊んでくれている内はそれを利用して時間稼ぎするしかない。
すぐに距離を詰めてこないことは月奈にとって好都合だ。
(どれくらいで助けが来るのか…もしかしたら来ないかも…それでも千寿郎さんと子供が助かるならそれでいい)
少しずつ息が上がり始めるが、走ることを止めず前を見る。
目の前に広がる闇の中に、人影を見つけ月奈は目を凝らす。
(鬼だったら私は終わりだ。でも前に進むしかない、刺し違えてでも…)
「人ならどいてぇぇ!!」
手甲鈎を構えて人影に突っ込む態勢を取ると、人影がフッと消えた。一瞬で自分の横を過ぎ去った熱風に驚いて月奈は振り返ると、鬼の首が弧を描いて空に飛んでいるのが見えた。
(あぁ、助けが来た…)
詰めていた息をブハッと吐き出すと、足から力が抜け体がぐらりと傾ぐ。
煉「月奈!?」
抱き留められた月奈は、声の主に安心して頭をすり寄せる。足も腕も力が入らない、文字通り精魂尽き果てた。
「杏寿郎様…逃げ切りました…。千寿郎さんと子供は無事ですか…」
実「無事だァ、月奈よくやったなァ」
千「月奈さん!!あぁ、助けが間に合ってよかった…」
煉「君は…本当に無茶をする」
実弥様と杏寿郎様がいるならもう安心ですね、と呟いて月奈は目を閉じて呼吸を整える。
(稀血で人を守れた…良かった…)
深呼吸をして、震える体をゆっくりと起こして苦笑いする。
今更になって鬼と対峙した恐怖が体に来ているのだ。
落とした手甲鈎を拾うことも出来ないほどに力が抜けてしまった。
千「月奈さんケガを手当てしましょう」
いつの間にか、周囲には隠が数人到着している。
子供が泣きそうな顔でこちらを見ているのが分かった、幼い命が守れたのだ。
「…子供が…無事で良かったです…」
力が入らない体を杏寿郎に抱えられながら、視線だけを少年に向け微笑んだ。