第7章 試練
千「残念ながら俺達には鬼を倒す術がありません、武器を使って迎え撃つのは最悪の場合のみです」
俺だけでは頼りないと思いますが、と呟く千寿郎に月奈は手を握り返し、すみませんと謝る。
「少しずつ鍛錬の成果が出てきているので、つい驕ってしまいました。千寿郎さんが手を引いてくれているから私はこの速度で走れます。頼りないなんてことありません」
ニコリと微笑むと、千寿郎は少し頬を染めて微笑み返した。
その時、視界の端に何かが映った月奈はその場で立ち止まる。
千「月奈さん?…あれは…」
突然止まった月奈が目を向ける場所に視線を移した千寿郎は、木の根元に座り込む子供の姿を見つける。
街から少し離れた林道で一人うずくまって怯えている子供に、月奈は駆け寄った。
ー街に送り届けていては日没までに家に帰ることが出来ない。でも子供を放っていくことはできない。不味い!
千寿郎は必死に最善策を考える。いっそ、街で宿を探すべきか。蝶屋敷に戻って父上か兄上に鴉を飛ばして貰うか。
「親とはぐれてしまったようです。もしかしたら、親もまだこの林道に…」
千「子供は俺が抱えます、兎に角蝶屋敷まで戻りましょう。親を探すのは俺達には出来ません。危険過ぎます」
走れますか?と千寿郎に聞かれ、月奈は頷く。
空はじわじわと闇に染まっていく、蝶屋敷までも無事にたどり着けるか分からない。
「この辺を任務で警戒している隊士はいるのでしょうか」
千「分かりません。鬼が出る場所に隊士は配備されていると思いますが…」
近くに隊士が居るならば、叫べば助けが来るかもしれない。それは、鬼を呼ぶ可能性もあるので賭けになってしまう。
千「俺達の帰宅が遅くなれば、父上も探しに来てくださると思います」
少しずつ闇に包まれていく林道を、ひたすら走る二人は千寿郎に抱かれた子供が息を呑む声で背後に鬼が迫っていることに気付いた。