第7章 試練
ア「しのぶ様。月奈のお迎えが到着しました」
千「こんにち…っわ!?」
蜜「千寿郎君!!お久しぶりね!」
廊下から顔を覗かせた千寿郎に、咄嗟に蜜璃は抱き着いて挨拶をしていた。千寿郎は慌てて受け止める態勢を取る。
千「蜜璃さん!!驚きました、お元気そうで何よりです」
しのぶに引き剥がされた蜜璃に、千寿郎は苦笑して挨拶をする。
(そうか、元継子だから知っているのね。あの隊服にもなれているんだ)
「千寿郎さん、わざわざすみませんでした。暗くなる前に帰りましょうか」
千「いえ、それ程の距離ではありませんから大丈夫です。…そうですね、早目に家に戻りましょう」
走って帰って来いと、父上からの伝言です。と千寿郎は苦笑して月奈の手を取る。
「鍛錬の指示を忘れない槇寿郎様…さすがですね。頑張ります…」
まだまだ、安定して速度を出して走れないので千寿郎に引っ張って貰っているのだが、申し訳ない気持ちになる。さすが、と言うべきか千寿郎は代々柱を輩出してきた煉獄家の鍛錬が身になっている。剣技の才が無かったことが本当に惜しまれる。
し「気を付けて帰ってくださいね。本当はお送りしたいのですが…」
蜜「私も送っていきたいけれど、任務が煉獄さんのお屋敷と反対方向なんて…」
ア「煉獄様の弟君がついていらっしゃるので、大丈夫では?二人ともお気をつけて」
月奈は皆の心配具合に苦笑し、蝶屋敷を後にした。
千「辛かったら言ってくださいね。速度の調整をしますから」
「ありがとうございます。でも暗くなると危険なので、速度は落とさないように頑張ります」
手を繋いだまま帰路を走る二人。空は夕暮れに赤く染まりつつある。
(速度を落とさずお屋敷へ向かえば、日没までには間に合う。今日は天気も良いから大丈夫)
走りながら、月奈は道着の中に隠し持っている手甲鈎に触れる。いざとなれば…
千「鬼に出会っても逃げます。それを使用することはありませんよ月奈さん」
ハッと千寿郎を見ると、視線だけをこちらに向け苦笑している。どうして、いつも見抜かれているのだろう。千寿郎は普段は弟のように可愛いが、いざという時には兄のように頼れる存在になる。