第4章 『かげおくり』誰でもえるゔぃんSS10月
「団長、お願いがございます」
意を決して彼女が話しかけてきた時は、昼時を過ぎ太陽の光が弱まろうとしているときだった。
「どこに行くんだ!?」
「いいから来てください」
手を引かれ慌てて外套を手にした。暖かいのは昼までで朝晩は冷える。どこに行くのか知らないが、馬を駆る時点で夕方以降になる可能性は高い。
馬でたどり着いた先は、見晴らしのいい丘の上だった。恋人たちの語らいのためだろうか、ベンチがあるが幸い誰もいなかった。秋の高く澄み渡った空の下には、俺と彼女がいるだけだ。
「団長、こっちに来てください!」
言われた通り彼女の隣に立つと、そこには2つの影が並ぶ。
「団長、いいですか!?今から10秒間、影を見つめてください!瞬き禁止!」
まくし立てる彼女に気圧され、理由も聞かずに影を見つめる。彼女の手に触れていないはずが、影は重なっていた。
「5、4、3、2、1・・空見て!」
見上げた空には2つの影がそのまま映る。
「これは・・」
目の錯覚が起こす現象だの、理屈で説明することは野暮だ。ただただ、澄んだ空気のなか空に映って消えていくシルエットを眺めていた。