第2章 『命ある限り』誰でもエルヴィンSS5月
「今更だが、俺と結婚してくれないか」
「ホント、今更だね」
大切なドレスを身に纏い、好きな人と向かい合うこの瞬間を夢見ないわけがない。
「よろしくお願いしますエルヴィン。でも私、何もあなたにあげるもの用意していない」
頬を撫でる彼の手が温かい。
「俺より先に死ぬな。それで十分だ」
「そうだね、私5歳も年上だからね」
唇を突き出し拗ねる私の顔をみて、エルヴィンは笑った。
部下に囲まれ祝われる彼を見守る私に、リヴァイ兵長が敬礼をする。
「約束しよう。俺が絶対にアイツを死なせない」
愛する人には生きていてほしいに決まっている。ただ、必ずそれがその人の幸せなのかと聞かれたら?
「リヴァイ兵長、私はもう十分幸せです。何が彼にとって幸せなのかは、貴方が一番知っているでしょう?」
戦いの中で育んだ絆は、時には男女の愛情より深いところにあるのではないだろうか。きっと大切な選択はリヴァイ兵長に任せるはず。
「…悪くない答えだ。お前はエルヴィンが言った通りの女だな」
「それ、聞くの怖いですね」
苦笑いをする私にリヴァイ兵長は言った。
「逞しく、自分の色を持った美しい女だと聞いている」
そんな風に思っていてくれたなんて。予想外の賛辞に
「黄ばんでいるだけだよ」
可愛くないことをリヴァイ兵長に言ってしまった。
「ハッ、口達者だとアイツも飽きないだろうな」
兵長が笑ったような気がしたが、視界がぼやけて本当かどうかわからない。
「戻り次第、店に行くよ」
「待ってる」
馬車に乗ったエルヴィンは見えなくなるまで左手を大きく振っている。
つられて左手を振っていると、ふと肩が軽くなった。
──ドレスにも寿命があるの。その寿命を全うするまで精一杯輝かせるのもドレスショップ店員のお仕事だからね?
泣いている私を横目に、ビーズを縫い付けながらママが言ってたのを思い出した。地面に散らばったビーズを見て呟く。
「お疲れ様。そして今までありがとう」
—終わり—