第5章 消息盈虚
「ありがとうございました!」
私はすっかり日常に戻っていた。
家とお店の往復をするだけの日々。
休みの日はおじちゃんの店を手伝ったり
お店に出すアクセサリーを作ったり。
あの日から彼に会えていない。
忙しいって、蜜璃ちゃんに聞いた。
営業を終えた店内は、なんだか淋しくて
心が荒んでしまいそうになる。
大きく息を吸い込んで、深呼吸。
気持ちを、切り替えなくちゃ。
そうだ。
そろそろ夏用の装飾も考えよう。
夏といえば、朝顔、ひまわり、花火に金魚、
モチーフはたくさんある。
そんな事を考えていると、
閉じた扉に、とんとん、と、遠慮がちなノック。
私は作業の手を止めて扉へと向かった。
カーテンを開け、
ガラスから見えたのは蜜璃ちゃんだった。
私は急いでカギを開ける。
「こんばんは睦ちゃん!
今、ちょっといいかしら」
蜜璃ちゃんは相変わらずの可愛さだ。
「うん、大丈夫。どうぞ」
店の中に、蜜璃ちゃんを招き入れた。
作業台のイスを差し出して
「座って?」
と促すが、
「あ、ありがとう!でもいいの。
すぐにお暇するから…」
蜜璃ちゃんは片手を振って遠慮する。
「そうなの?」
そんな淋しいこと言わないでほしい…。
蜜璃ちゃんは、もう一方の手に提げていた紙袋を
私に差し出した。
「よかったら、これ食べてね!」
「…え?」
それを手に取って中を覗く。
「…どうして?」
中に入っていたのは、
おじちゃんがお店で出しているお弁当と
蜜璃ちゃんと一緒に行ったあのお店のお団子だった。
蜜璃ちゃんは、
私とおじちゃんたちの関係は知らない筈だ。
…何という偶然。
まぁ、同じ商店街だから
ありえない事でもない。
「勝手な事してごめんなさい。
でも-睦ちゃん、この頃淋しそうで。
そういう時はね、たくさん食べるのが1番なの!」
焦りながら、
一生懸命に励ましてくれる蜜璃ちゃんが…
「淋しいわよねっ?宇髄さん、長期の任務だから……大切な人に会えないなんてつらすぎるもの!だから、せめておいしいものをたべて、元気出してね!」
彼女の優しさがすごく伝わってきて、
私はさっき堪えたばかりの涙が…
「睦ちゃん…」
蜜璃ちゃんは私ん抱きしめてくれる。
…やっぱりちょっと強い。
でもその強さが、とてもありがたい。