第23章 こいびとおにいちゃんズ。の彼女
いつもの、触れるだけとは違う、
妖しく押し付けられるような口づけに
少し身を硬くする私を
安心させるためなのか優しく抱き寄せ
背中を撫でてくれた。
あぁ…
この腕の中は、なんて安心できるんだろう。
私の様子を窺うため、
少しだけ離れた唇…
「…杏寿郎さんも、私だけのものですか…?」
答えを求めて、
真っ直ぐに見上げる私のその目を受け止めて
「当然だ。幼い頃から、俺は君だけのものだ」
強く頷いてくれた。
私のすべてを…身体だけでなく心まで
包み込んでくれるこの腕が
私だけのものかと思うと、喜びに心震える。
もう大丈夫。
全然怖くない…
そっと重なる口唇も
私の着物の上を伝う優しい指も
私に吹いてくる息遣いでさえ
この人の全てが愛しくて、
さっきまでの戸惑いと不安なんて
すでに遥か彼方。
ただ、
今更ながら
気になる事がひとつ…
「あ、の…杏寿郎、さん…」
「…ん…?」
口づけを少し待ってくれるが
長くは無理、と、顔に書いてある…
「今、ですか…?」
私はふと、庭の方に目をやった。
それにつられた杏寿郎さんも、
くるりと顔をそちらに向ける。
障子に遮られた内と外。
外からは、これでもかというくらいの
眩しい陽光が差している。
その恩恵を受けて
この部屋の中もまぁ明るい…
まさかとは思うけど
この輝きの中、私は素肌を曝すの…?
「…時間が間違っている気がします」
「…確かに…明るすぎる程だな…ただ
俺は夜まで待てない」
そうして再び塞がれる口唇。
うそっ⁉︎
それが私の本音。
だって、私が抵抗できないように
両腕ごと強く抱きしめられてしまって
彼を押しのける事すら出来ないのだ。
「や、…私の、いいのがっ、いいって…!」
そう言ったくせに!
「すまないが睦、
俺の本音を知りたいと可愛い事を言ったのは君だ」
「今になってそんな…っ都合のいい事…!」
「大丈夫だ。最後まではしないから…」
「え…?」
最後まで?
どういう意味かを問おうとするも、
杏寿郎さんに襟元を乱されて
言葉を継げない。
「ほんの少し…赦してほしい…」
素肌にうずまる囁きに溶かされて行くのがわかる。
この人に赦せと言われれば、簡単に赦してしまう。
私は彼にしがみついて
初めての感覚に身を委ねるのだった。