第3章 意路不倒
私は、大通りを脇道に入った場所にある
崩れそうな廃墟を見つけた。
あそこを、私は知っている。
小さい時、よく1人で行っていた所だ。
まだ、おじちゃんたちに引き取られて、
1年程しか経っていない頃。
「宇髄さん…あそこ、行ってもいいですか?」
私が見上げると、
「あそこって…あの廃墟か?危ねぇぞ。崩れそうだ」
顔をしかめる。
「そっか…。…」
言われた事は理解したが、
心がついて来ず、ついその建物を見つめてしまう。
すると、しばらくして、
はぁ…という溜め息が聞こえ、
手を引かれ、そのままそちらへ歩き出す。
「あの…」
「行きてぇんだろ?」
「…はい!」
「危ねぇから、俺から離れんなよ」
何だかんだ、私には甘い宇髄さんに、
嬉しくもくすぐったい気持ちがした。
近づくと、本当に危険な事がわかった。
当然だが、あの頃よりもずっと老朽化が進んでいた。
あの頃はまだ、戸も壁もちゃんとあった。
今はもう、壁は崩れ落ち、
ほとんど骨組みだけになっている。
お昼に1人でここに来ては、おにぎりを食べていた。
まだ、慣れない時は、1人の方が楽だったから。
おじちゃんたちに慣れてからも、
何となく、お昼はここで食べていた。
おばちゃんもなにもいわず、
おかずを持たせてくれたりして。
「中には、入らない方が良さそうですね…」
入らなくても、中は丸見えだけど。
「そうだな。天井がたゆんでる。
いつ落ちてもおかしくねぇ」
そうか…。
そんなに、時が経ったんだなぁ…。
私は草の生い茂った庭を見た。
道路と敷地を仕切る木製の塀に、
印が描いてある。
丸が、幾重にも…的?
そこ目掛けて、何かを投げたのか、
いくつも何かが刺さったようなキズがあった。
「これ…何ですかね…」
私がそう言うも返事がない。
不思議に思い、宇髄さんを振り返ると、
的ではなく、私をボーッと見つめている。
何とも言えない表情で。
「……何ですか?」
そっと訊いてみると、はっとした宇髄さんは
「あぁ、何だろうな…。的じゃねぇか」
慌てたように答える。
何だか違和感を覚えた。
「…やっぱりそうですよね…。
私はこんな落書きしないですけど」
「そうか。じゃ誰か他のヤツがやったんじゃねえの。
ここに来るのは、お前だけじゃないだろうし、な」