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【鬼滅の刃】予定調和【宇髄天元】

第21章 スルタンコラボ企画 〜睡蓮の昼寝〜





深緋色と深縹色のグラデーションを背に、
黒い影として浮かび上がる王宮を
まるで夢の中にいるような心地で眺めていた。
もう月が昇り始めていた。
また夜が来る。
寒くて長い夜が。

…こんな思いをするようになったのも
憎かったはずのあの男を
私がうっかり、愛してしまったからだ。

何という失態。
いや、大失態だ。
私には
やり遂げなくてはならない使命が
あるというのに…。

そんな事を考えながら、
私はこれまでの経緯を思い返していた。











ある朝のこと。

「アイシャ様、果物をお持ちしました」

私付きの侍女ジャナが
大きな器いっぱいの果物を持って来てくれた。

強すぎる陽の光。
庭園の噴水から十字に引かれた水路に、
蓮の葉を一枚ずつ流して遊んでいた私は
その山のような果実に心を奪われた。

「おいしそう!」

目を輝かせたのも束の間、

「王子様からの贈り物ですよ」

ジャナの一言に
私は一気に興味を失った。
再び水路に葉を流し始めた私に

「こんなに瑞々しくておいしそうなのに…」

特に驚きもせず色彩豊かな山盛りの実に
目を落とす。
なぜ驚かないかというと、いつもの事だからだ。

「じゃあ、あなたにあげる」

「滅相もございません!
そんな事をしたら死刑になりますよぅ」

私の指を離れた葉はくるりと輪を描き、
流れに乗って遠ざかって行った。
あぁ、羨ましい…。
私もこの葉っぱのように
流れるままに旅ができたら…。

「そんなわけないじゃない。
たかが果物で死刑って」

「王子様からだという事が問題なんです。
アイシャ様…あ!またそんな所に!
肌が焼けるから、この時間はいけませんと
何度も申しておりますのに…」

水路に沿って寝そべる私の傍に
足付きの銀の皿を置いて
ジャナは私の肩にベールを掛ける。

「もう…日焼けくらいどうってことないよ。
それよりその名前、煩わしいなぁ…」

「名前…?」

「私の名前。誰もいないんだし
今はいいでしょう?」

「あ……睦様」

「うん。…様もいらないけど」

「それはご容赦下さい」

にっこりと、
そぐわない笑みで答えるこの下女ジャナは
私の1番信頼する人間。
無邪気で可愛い、私の1番の理解者だ。

「日影に行ってくださいよぅ。
私が叱られます」



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