第1章 嚆矢濫觴
そして、冒頭に戻る…
昨日、
私は蜜璃ちゃんと2人で来る約束をしたはずだった。
のに、
甘味処の前には、
見覚えのある大きな男が立っていて、
一緒に店内に入ると、
私と蜜璃ちゃんの向かいに座ったのだ。
…そんなの聞いていない。
「睦ちゃん!おいしいわね!
…睦ちゃん?食べてる?」
「蜜璃ちゃん…」
めっちゃ食べてるね、あなたは。
「おいしいわよ?」
「…うん、いただきます…」
そうは言うものの、手が出ない。
そんな私を見て、
「睦、腹でも痛ぇのか?」
睦⁉︎
何でそんな急にお友達みたいになってるの。
「宇髄さん、追加してもいいですか?」
不思議そうに私を眺めていた宇髄サンは
蜜璃ちゃんの言葉に、
「おぉ、好きなだけ食え」
にこりと笑う。
…この場に私は必要なのだろうか…
蜜璃ちゃんは許可がおりたのを良いことに、
店員さんが焦り出す程の量を追加している。
私はそれを、
やっと手を伸ばしたおだんごをひとかじりしながら見ていた。
注文し終えた蜜璃ちゃんが
くるりと振り返り、
「睦ちゃん、しあわせねー!」
なんて頬を染める。
そんな顔を見せられたら、
私にもしあわせが伝染したようで、
「うん。おいしいねぇ」
ふにゃりと破顔してしまう。
本当においしい。さすが人気店だ。
毎日、好きなことを仕事にしたって、
つらいことはある。悩みだってある。
でも、こんなにおいしいものを
好きな人と一緒に食べるだけで、
またがんばろうって思えるから不思議だ。
「甘いもの食べるの、久しぶりだな」
「そうなの?ダイエット?」
蜜璃ちゃんが私を覗き込む。
「違う違う。ちょっと忙しくてね、
時間がなかったの」
甘味どころか、ごはんもそこそこだった。
「何か新しい物を作ったりする時は、
食べるの忘れちゃったりするんだ」
「あら、仕事熱心なのね!素敵!
でもしっかり食べないと倒れちゃうわ。
睦ちゃん、小さいんだから余計に…」
「ふふ、そうだね。気をつける」
蜜璃ちゃんは私の頭を撫でる。
背は小さいし、妹と思われていそうだが、
私は1コ年上です。