第19章 思い出 ☆彡
睦があんまりしつこく俺を食うから
何かの前フリなのかと勘違いしそうになる。
例えば、自分も食ってもらいてぇとか。
そんなん、喜んで食ってやるけど?
ただ睦のことだ。
単なる戯れと、そっちの方が正解な気がする。
だが、そんな睦をその気にさせるのが
俺の趣味というワケだ。
不意に時計に目をやる睦。
あぁ、もう…。
あんなモン外しときゃよかった。
「睦」
「え?」
頬を包みくるっとこちらを向ける。
多少見開いた目が俺を捉えるか捉えないかで
ちゅうっと口づけをしてやった。
いつまでも浸ってらんねぇ現実ちゃん。
俺はぎりぎりまで睦と逃避したい理想くんだ。
時なんか気にせずに、
甘い時間にどっぷりはまっていたいのよ。
「…ん、ふ…」
何故、急にこんな事をされるのか、
それをわからないまま
睦は俺からの口づけを受けていた。
握りしめた拳を、俺の胸に当てて。
たまに洩れる、
色っぽい息遣いが俺の耳を喜ばせる。
「ん、やぁ…っん、!」
湧き上がる欲。
それを恐れて抵抗の手を強め、
俺を拒むように『いやだ』と言ったその口に
すかさず舌を滑り込ませると
「んあ…っ」
小さな悲鳴を上げて
顔を恐怖に染めた。
この状態のこいつを
その気にさせて抱いてやるのが
大好物なんだが…。
それもこれも、煉獄にかかっている。
⌘
「宇髄!おはよう!」
ハキハキと元気な声。
空気を震わせる程の。
「…おぉ。朝っぱらから元気だなぁ?」
例えば朝が苦手なヤツでも
この男にかかればたちまち目を覚ますだろう。
「1日の始まりは
気持ちのいいものにしなくてはな!」
恥ずかしげもなくそんな事を言える煉獄が好きだ。
…いや、この男にしかなし得ない事かも。
他のやつが言えた台詞ではない。
煉獄だから許されるような気がする…。
「あぁ、そうだよな」
挨拶は基本だ。
それは大いに同意できる。
「ところで宇髄。
こんなに早くからどこへ行くのだ」
……
「別に」
「別に、とは?今、答えるまでに時間があったな。
言いにくい事なのか?」