第19章 思い出 ☆彡
大きく突き出たお腹。
確かに普段通りに家事をこなすのは難しい。
正直、大変だ。
でもそれを理由に
家事の手を抜くなんて嫌だった。
この子が邪魔なわけじゃない。
そう思っていたからだ。
内側からぼんと蹴られ、
夜中に目が覚める事さえあるくらい
元気な赤ちゃんがそこにいるのかと思うと
不思議な気持ちでいっぱいだった。
いつも通り床について休んでいると、
…なにか、違和感を覚えて目が覚めた。
お腹を蹴られたわけじゃない…
「…ねぇ、」
隣の布団に寝ていた天元に声をかける。
小さな私の声にも反応して、
ぱちっと目を開いてくれた。
「どうした」
しかも意識もはっきりしてる。
…寝ぼけることってないのかな…。
「…ちょっ、と、ヘンかも…」
私が呆然として、何とか声を押し出すと
ひどく真剣な顔で起き上がり
私の元へと来てくれた。
「…痛むのか?」
落ち着いた声。
私の手を握りしめる大きな手。
感じていた不安を、全部拭ってくれる。
「わかんない…」
いたい、というよりも…
なんかヘンだ。
「そうか。じゃもう少し様子見ような」
よしよしと頭を撫でられて
「夜はまだ冷えるなぁ。寒くねぇか?」
私の布団を引っ張り上げてくれる。
……
「寒く、ない…」
普段通りに、…いや、
何ならいつも以上に優しく接してくれる天元に
もしかしてどうって事ないのかな、
なんて気さえしてくる。
もう半年以上、お腹の中にこの子を宿して
それが当たり前になっていた。
それがいざ生まれるのかと思うと
どうしたらいいのかわからなくて
戸惑っていた私を、落ち着かせてくれているのだ。
もう、何があっても大丈夫かも。
そう思った瞬間、
ぎゅうっと下腹部が縮まるような痛み。
「…っ⁉︎…ぅ」
呻き声を抑えられなかった。
繋がれていた天元の手を
力いっぱい握った。
「っ!…おい、睦?」
枕に顔を押し付けた私の肩に手をかけ
ただならぬ雰囲気を察した彼は、
「まずいな…」
ぽつりと呟く。
まずい、
その一言を聞いて、いよいよなのかなと思った。
しっかりしなくちゃと…。
「睦、待っていられるか」
顔にかかった髪をかき上げながら
天元は心配そうに言った。