第1章 嚆矢濫觴
戻ってきたおじちゃんは驚いて、
「睦ちゃん!
そんな事までしなくていいから、
ちょっと休むといいよ」
なんて言ってくれる。
「おじちゃんこそ、ゆっくりしてて?
毎日お疲れ様」
「何言ってんだ」
はははと笑う。
笑い事じゃないよ?
すごく大変じゃない、この仕事。
お風呂を沸かし終え、居間に戻ると
おじちゃんはお茶をすすっていた。
「おじちゃん、夕飯できてるよ」
「あぁ、ありがとう。
後は適当にやるから」
「…おばちゃんの具合、どうだった?」
「まだ熱が高いな。
でも、睦ちゃんのおかゆ、
がんばって食べてたよ」
「えっ!無理して食べないように言ってね?」
「いや、無理って感じでもなかった。
睦ちゃんありがとうって言ってたぞ、おばちゃん」
「うん…」
おじちゃんはうーんと伸びをすると、
「睦ちゃんは、夕飯どうするんだ?
食べていくかい?」
「ううん、今はまだいらない。
ありがとう。あと、する事は?」
疲れたのかな、あんまりお腹がすいていない。
「いや、もういいよ。
明日の仕越しはもともと俺の仕事だから」
「そっか。じゃあ私、もう行こうかなぁ」
「あぁ、早い方がいい」
相変わらずの心配症に、つい笑ってしまう。
私は階段下から、
「おばちゃあん!今日は帰るねぇ!
お大事にー!」
大声で話しかけた。
…聞こえたかな?
「おじちゃん、
明日も今日くらいに来るね!
おやすみなさい」
そうして私は店を出た。
家までの道のりは結構ある。
なのに、足取りが軽い。
疲れているのに、とても元気だ。
帰ったら、お風呂沸かしてゆっくりつかろう。
朝の残りのごはんをおにぎりにして、
塩鮭でも焼いて…
あ、洗濯物入れなくちゃ。
私は帰ってからのあれこれを考えながら歩いた。
でも、洗濯物を入れた所で、
私の意識はぷっつりと切れてしまった。
あぁ、お風呂入りたかった…