第1章 嚆矢濫觴
「……っ」
私の勢いに、
おじちゃんが声を詰まらせる。
「じゃあ、
…せめておばちゃんの熱が下がるまで
お手伝いさせて?
こんな時に何もできないなんて、私やだよ」
おじちゃんとおばちゃんの力になりたい。
一緒に頑張らせてほしい。
そんな私の思いが通じたのか、
おじちゃんは諦めたように、ため息をひとつ。
「…睦ちゃん、ありがとうな。
実は俺も、どうしたらいいのか悩んでた所だ。
助かるよ」
認めてもらえて、私は顔を上げた。
おじちゃんは、泣きそうな顔で笑っていた。
そんな顔、初めてみた。
「でも、頼むから無理だけはしないでくれよ。
そんな事されたって、俺もおばちゃんも喜ばないぞ。
それから、おばちゃんには近づくな。
お前にうつりでもしたら、
申し訳なくて、おばちゃんこの先、生きてけなくなるからな」
ニヤッと笑ったおじちゃんは、
もういつものおじちゃんだった。
次の日から、
休む間も無く働いた。
まだ暗いうちから起き出して、
洗濯とごはんを済ませると、
おじちゃんの店へと向かう。
おばちゃんのおかゆと、おじちゃんの朝食を用意して
おじちゃんがおばちゃんにおかゆを出している間に
本日2度目のお洗濯。
その後は
お惣菜とお弁当づくりのお手伝い。
出来上がった物からケースに並べて開店準備。
ここは、お昼ごはんから夕ご飯のおかずとして
買っていく人がほとんどなので
開店もゆっくりめ。
でも
数が多いので、とても時間がかかるのだ。
私は、流し台にたまった汚れ物を
先に洗っていく。
大きなボールや菜箸、
ざるや幾つものバット。
基本的に調理はおじちゃんがやるので、
それ以外の雑務が私のやるべき仕事だ。
すべて洗い終えたら、
お弁当の容器に詰めていく作業。
種類の多さも自慢の店。
その日に仕入れた材料によって、
おじちゃんが何を作るかが決まるので
いつも決まったものではないが、
10から12種類のお弁当が売られている。
おじちゃんが作り終えたおかずたちを、
それぞれの容器に詰めて
粗熱が取れたものから蓋をする。
少しのコロッケと焼き鳥など、
お昼やおやつにつまみやすいお惣菜も並べたら、
午前中の仕事はほとんど終わり。
後は売り子に徹するのみ。
開店は10時。
ピークは12時。
これだけ準備して、13時前には完売だ。