第17章 愛月撤灯
毎日、がんばってくれてんだな…
なんだかひどく愛しくなって、
風呂上がりで体温の上昇した睦を
起こさないよう、ゆっくりと抱き上げて
自分の布団へと横たえた。
すでに熟睡しているのか
まったく起きる気配はない。
可愛いこいつは、
俺のために無理をする。
何を言っても、してしまうのだ。
だから、こんなに目を光らせているというのに。
睦の隣に寝転んで電気を落とす。
…いつもありがとな。
おやすみ。
スズメの囀り。
涼やかな空気。
今朝は清々しいほどの晴れ。
生まれたての陽光は、
瞼の上から俺の目を突き刺して…
でも、ここにあるはずの愛しい温もりがない。
ぱちりと目を開けるも、
睦の姿は見当たらない。
…そうか、昨夜はすぐに寝ちまったんだ。
俺に抱かれない翌朝は、
あいつは普通に起きられるのだ。
何とも顕著にあらわれるなぁ。
俺も勢いをつけて起き上がり
布団を片付けてから
睦の行方を追った。
…台所、辺りかねぇ。
果たして、睦はいた。
予想通り台所に。
しかしだ、俺が顔を覗かせたその時、
睦は…
「おい!何をしてんだお前!」
俺は慌てて睦を止めた。
「…!」
腰に手を回し腹を引き寄せ
その手首をつかみ上げる。
「あ…天元。おは、よ」
驚いているのか戸惑っているのか
睦はたどたどしく
朝の挨拶なんかしやがった。
「おはよじゃねぇよ。
お前何飲もうとしたかわかってんのか?」
睦が手に持っていたもの。
小ぶりのグラスに並々と入っていたのは
見まごう事なく、黒々とした醤油だ。
「……あれ、お醤油…?」
「あれ、じゃねぇよ!
そんなもん飲んだら死んじまう」
「えぇ⁉︎そうなの?そんなつもりないから!」
「当たり前ェだ‼︎やめてくれよ、ホント」
「お料理に使うつもりだったんだ」
確かに、鍋には魚がくつくつと煮立っている。
「ちょっと味が足りなくて…」
「ちょい足しの量じゃねぇし、
しかもお前、グラスに注いでるじゃねぇかよ」
飲む気満々だ。
「危ねぇな」
「…ごめんなさい。
なんだか無性に飲みたくなったみたい…」