第17章 愛月撤灯
こんな甘え方をされ、
アホみてぇに喜んじまう俺は
少し強めに、小さな体を抱き寄せた。
「ホントに明日も行くか?」
「ホントに?
…また、あの瑠璃色の着物、着てくれる?」
「また?そんなに気に入ったのか?」
睦は耳を胸につけたまま見上げてくる。
「うん。何でかな、あの色だいすきなの。
よく似合ってたし…天元のための色みたい」
何を思っているのか
とても幸せな顔になった。
「懐かしいような気がする」
次の瞬間、睦の目が
何かを思いついたように見開かれる。
「そうだ、あの色の羽を持ってたんだ…」
「羽?」
「うん、瑠璃鳥が落としてった羽」
睦はぎゅうっと俺に抱きついた。
だから俺も、強く抱きしめてやる。
「睦…ちょっと休もうか」
湿っぽい空気だ。
「……」
睦は小さくかぶりを振った。
……だろうな。
俺は睦の頭のてっぺんに口づけを落とす。
ソレ、どう考えても母親がらみの話だろ?
もう苦しいのはいいんじゃねぇか。
俺が塗り替えてやりてぇんだよ。
そんなん無理だってわかってる。
でもな、今はここにいられる。
昔のそこに、俺はいてやれなかった。
その時俺は、わかってやれなかった。
だからその分、今居るだろう。
そばにいる。当たり前になったんだ。
それがこんなに、愛しいんだよ。
「睦、愛してる」
全身を抱き込んでやると
小さく頷いた睦は
「私も」
くぐもった声で応えてくれる。
そうだ、その時俺が、
お前のそばにいてやれりゃあ
小さな心が傷つく事はなかった。
でもそんなの、どうにもならねぇ事だ。
だから、未来があるんだよ。
きっと、そうなんだ。
「なぁ、睦」
それにしたって…
「睦」
ソレにしたってお前…
「泣く事ねぇだろう…?」
俺は睦の頬を支え上を向かせた。
「俺が居てやってんだから」
そっと口づけると
すんっ、と鼻を鳴らす。
「今を見ろよな…?」
ホントしょうがねぇヤツ。
笑ったり泣いたり忙しい。