第12章 形影一如
論点がズレていた。
「まだ帰るわけねぇだろ」
睦としたい放題の旅が
たった1日で終わるワケがねぇ。
「そう、なんだ…私てっきり
今日帰るものだと思ってた」
睦は少し和らいだ表情を見せた。
相変わらず、すぐ顔に出るなぁ。
素直でよろしい。
畳に直に座る睦の隣に腰を下ろす。
「今日は睦に何買ってやろうかなぁ」
ふにふにと、柔らかいほっぺたをつまんでやる。
それなのに、何の抗議もせずに
ふにゃっと笑い、
「ふふー」
と破顔する。
いっぺんにご機嫌になったな。
「…嬉しいか?」
「うん、嬉しい。昨日のゼリイみたいなの、
またないかなぁ…」
ぴょんと、俺の胸に飛び込んでくる睦を
咄嗟に抱きとめて、少しだけ呆れた。
「…お前、よく食うなぁ。
ほんと甘味が好きなんだな」
「だいすき。
もっとたくさん食べられたらいいのになぁ」
そう言って自分の腹をさする。
…
「いや、充分食ってるぞ」
メシと合わせれば一人前以上の量だろう。
「…ほんと?幸せ太りしちゃうかなぁ?」
幸せなのか…。
「…それなら、しょうがねぇ。
俺のせいってことだろ?」
小さな頭を自分の胸に押し当てる。
…自惚れるなって思われるかなと、
一瞬頭をよぎるが、
「…そう、天元のせい」
俺の思いに反して、
くすくすと楽しそうに笑った。
笑ってくれてるのが一番だ。
こいつが笑っていると、何でこんなに幸せか。
ひとしきり笑ってから
ふと、笑みを潜めた睦は、
「…いくとこ、決まった?」
上目遣いでこちらを窺う。
行くとこ…?
突然訊かれ、瞬時に理解出来ずにいたが
「…あぁ、今からの話?」
少し考え込み、合点がいった俺が訊くと
「うん」
にこっと笑った。
「そんなに楽しみか?」
「うん!すっごく楽しみ!
だって帰る気でいたのに…、
帰らなくてもいいんでしょ?」
「あぁ、まだまだ帰らねぇよ。何なら
もう帰りたいって思うくらいあちこち行くか」
「えぇ?そんなのムリだよ」
睦は再びこちらを見上げる。
「ムリ?何でよ」
抱きしめた時に乱れた髪を
手で梳いてやりながら訊いてみた。