第12章 形影一如

「睦…？」

あ、名前……

いつまでたっても、続かない言葉。
おかしいと思った宇髄さんが、
とうとう沈黙を破る。

「…はい」

「…いつもと、違うな」

やっぱり気づかれていた。

「出逢った頃に戻ったみてぇ…」

「そ…かな…」

「あぁ」

スリっと、頬ずりされ、私はまた胸が高鳴った。

「…睦…好きだ」

「…っ」

「好きだよ」

耳に唇を寄せて囁かれると
立っていられないほど力が抜けて
こうして抱きしめられていないと
この場にへたり込んでしまいそう。
彼の胸元にしがみついて
何とか堪えるも、どうしていいかわからない。

「好きだ…」

「…ゃ…も、聞いたから…っ」

逃げようとする私を押さえ込む。

「…何度も言うんだ」

…前にも、言われたような台詞。
私がおかしいのをわかっていて、
更に堕とそうって魂胆だ。
私こそ、それがわかっているのに
どうすることもできない。
簡単に、堕とされてしまう。
ただ、耳元で囁かれているだけなのに…。

「睦…」

「…ぁ……そ、やって…」

言いかけたくせに、果たして
こんな事を言ってもいいのかと悩む。
すると、勘のいいこの人は

「…何でも言えって」

耳に口づけをしてきて、
私は顔が火照るのを感じた。
もう…言いなりになってしまいそう。

「宇髄さんに、呼ばれる、度に
自分の名前が好きになってくの…」

「…そうか。なら何度でも、呼んでやるよ」

「…ん…っ…ソコで、喋らな、で…」

肩をすくめて彼の胸元を押す。
甘く囁かれると、たまらなくなる。
私の抵抗なんてものともせずに、
涼しい顔をしている彼に、

「感じてくれんの…？」

そう言いながらうっとりと微笑まれ、
図らずもまた心臓がドクっと跳ねる。
…持たない。
もう持たないと思う、私の心臓。
なのに、離れたくたない。
このままいたい。
もっと、聴いていたい…。
いろんな矛盾が、私を蝕んでいく。
そうして俯いた私を、
力を入れて抱き直してくれる。

「…ぎゅってされるのも…」

「あぁ、俺も…お前とこうするの好きだ…」

言いながら、触れるか触れないかの口づけをする。
ぎゅっと目を閉じて唇を噛み締める私を
そのまま間近で見つめている彼。