第12章 形影一如
「わぁ!あれ?」
睦は嬉しそうに振り向き指さした。
こいつのはしゃぎっぷりはまるで子どものよう。
たまの事だ、大っぴらとはいかないが
多少、羽目を外して
旅行に連れてきて良かったと思う。
「すごいねぇ、本当に雲より高い」
湖越しに見るその山は見事。
少し心残りなのは、季節が夏、という事だ。
雪化粧した富士山はそりゃあ美しいから。
ここら辺をブラブラして、
少し戻るが宿は修善寺。
温泉街だし、娯楽や土産もあるだろう。
万一無かったにしても
睦の楽しませ方は心得ている。
こいつは何でも楽しめる上に感動屋だ。
現に、山ひとつ見るだけでこのはしゃぎよう。
純粋というか、単純というか…。
「この辺りは静かだねぇ。
景色はキレイだしとっても素敵」
「よかったなぁ」
静かなのは当たり前。
人の来ねぇような場所を俺が探したんだから。
ここは多分、ふつうなら見つからねぇ秘境だ。
人の手の入っていない神秘的な場所。
よく見つけたと自分を褒めてやりたい。
そんな事にも気づかねぇ睦は
まぁ可愛いな。
「こんなに素敵な景色、誰も見に来ないんだね。
もったいないなぁ」
睦はため息混じりにうっとりと言う…。
タネ明かし、してしまおうかと思うほど…
いやいや。そこは堪えよう。
「俺らで独占だな」
きゅっと肩を抱き寄せると
ぱっとこちらに、警戒している目を向ける。
「…誰もいねぇし」
ちゅっと口づけを落とす俺に
文句を言いたそうにして、
でも『誰もいない』のでいいかと考えているのが
おもしろいほどに伝わってくる。
これを数日間、独り占めかと思うと
心躍って仕方ない。
「睦ー…これ以上俺にどうしろってんだよ」
困って睦を抱きしめると、
同じように困った睦が
「どういう意味?何のこと…」
腕の中から声を上げた。
「浮かれちまって仕方ねぇってこと」
「えぇ…宇髄さん、この間からずっとそんな…」
少し呆れた物言いに、
「…ダメか?」
落ち込んだ顔を見せると、
睦は慌てたように俺にしがみついてくる。