第52章 スルタンコラボ更に追加 〜睡蓮の願い〜
そんなに恐ろしい事はない。
こいつの擁護なしには過ごせない事は
たくさんある。
親父への発言権まである男だ。
敵に回せば厄介なのは明白。
幸い、すべき事をきっちりこなせば
この男は広い心で受け入れてくれる。
今回の公務、失敗は許されない。
そんな事になれば、
睦との自由な逢瀬はなくなるだろう。
なんとしてもそれだけは回避せねば…
「どうだった?」
夕食を終え、既に日は落ち
入浴を済ませた頃、
寝酒を持って来させたのには
大きなワケがある。
そのワケとはもちろん…
「普通にできた?」
ジャナとアシルの逢瀬についてだ。
午後の早い時間にジャナは出掛けて行った。
そんなふうに割と自由が利くのは
お相手が第二王子だからだろうか。
アーディルさんあたりが
きっと口利きをしているに違いない。
味方であれば絶大なる助けになるが
もし敵に回れば……考えたくないな。
「普通…って、何でしょう睦さま…」
ジャナはいつもの仕事着とは違って
袖ぐりの大きく開いた
爽やかなクリーム色のワンピースという
なんだか可愛らしい出立ち。
多分自室にも寄らず、
そのままここへ来たのだろう。
夕食の給仕は別の侍女がしてくれたし
私は何の不自由もなかったけれど。
まぁるい形のカットグラスに
淡い桜色のお酒を注いでくれながら
ジャナはぼんやりと言った。
「…普通は普通よ。こんな感じ」
私はジャナを指差し
この状態が普通である事を教えてあげる。
「こんな感じではいられませんでしたよ!」
「あぁ…そうよね…」
ジャナは多少ヤケを起こしている様子。
恋なのね…
もっと身構えてしまいそうだから
わざわざ言わないけれども。
「睦さまとなら話せるのになぁ…」
ジャナがそう言ってため息をついたのと
「私だと思って話せばいいのに」
私がそう提案したのはほぼ同時だった。