第52章 スルタンコラボ更に追加 〜睡蓮の願い〜
そんな事わかっている。
非常に気に食わないがアーディルは
本気で睦を可愛がっていた。
扱いが他とはまるで違う。
睦がした頼み事は
どんな事であろうと
二つ返事でオッケーする。
甘やかしが過ぎると常々思っている所だ。
…睦が甘えるのは
俺だけのはずだったんだが。
「それにしても…」
アーディルは少し姿勢を崩し
テーブルに肘を突いた。
「なんで急にそんな事になったのかしらねぇ…」
俺の顔を眺めて
しかめっ面になる。
「この間話した時も
おかしな所なんてなかったし
あんたの話も普通にしてたけど…」
「俺のどんな話よ?」
「内容までは教えないわよ。
でも嫌悪感みたいなものはなかったけどねぇ」
「その割に別れが惜しくなかったみてぇだけど」
また明日、
くらいな軽い感じで
俺の事を簡単に追い出して下さった。
今回の公務は半月は帰れない。
短いようで長い期間だと俺は思っている。
それなのに、最後のチャンスを逃したようで
俺はものすごい勢いで納得が行っていない。
「勉強ってなぁに?」
「民たちの声に応えたい、とか言ってたなぁ」
「まぁ!」
ひと際高い声を上げ
アーディルは驚きと共に喜びの表情を浮かべた。
「何よ、ちゃんとした理由があるんじゃない!
すごいわ、睦様…!
毎日市場に通っていたものねぇ」
アーディルは感慨深そうに
うんうんと頷いているが…。
「毎日…。毎日?」
毎日市場に通う?
どういう事だ。
「いつの事だ」
「ずっと昔よ。知ってるでしょ?」
………
シレッとして
よくもまぁ…
「ずっと昔ってなんだ。
あいつがここに来て1年も経ってねぇんだぞ」
俺が睨むほどわざとらしい笑顔になり
「男が細かい事を気にしたらダメよ。
嫌われるわ、ドンと構えてないと」
正論なんかを口にしやがる。
「アシルの時だな」
胸くそ悪ィが…
何とも言えねぇ気持ちになるな。
あれは勘違いの種でしかなかった。
アシルが睦が好きだと
勘違いしたからな。
だが結果として
よかったのかもしれない。