第52章 スルタンコラボ更に追加 〜睡蓮の願い〜
やっと見えたジャナの表情。
頬はやっぱり濡れていて
私の話を素直に聞くジャナは
小さな女の子のようで
なんだかとっても愛しく思ったのだった。
ハラハラと涙を流す彼女を
何とか部屋に招き入れ
さっき話をした通り
まだ仄かに温もりの残るお茶を飲ませた。
ひと口飲む毎に小さくため息をつき
落ち着いていく様が見て取れる。
私は内心ホッとしていた。
それはもう盛大にホッとしていた。
だってさっきの取り乱し方は普通ではなかった。
ジャナが私の前であんなふうになるなんて
私を怒らせたと勘違いした時くらいなのに。
いや、
それに輪をかけて動転していた。
カチャ、と茶器をテーブルに戻したのを見計らい
「もう一杯、飲む?」
私は茶器に手を伸ばす。
でもジャナはそれをやんわりと制して
「ありがとうございます。
だいぶ落ち着きました」
いつもの微笑みを浮かべた。
本当に落ち着いたようだ。
普段通りに見える。
今度は私がため息をつく番だった。
「よかった…」
私が空になったカップを
オケージョナルテーブルに戻していると
「あ…申し訳ございません!
睦さまにそんなことを…!」
我に返ったジャナは
急にいつもの調子を取り戻す。
「何を今更…」
私はもともと庶民なのだから
こんな事は普通にする。
天元の事はだいすきだが
『王子様のお相手』という肩書きは
邪魔くさくて仕方がない。
自由気ままに暮らしていたからか
堅苦しくて好かない…
でもジャナにはそんなことは
通用しないのだ。
侍女という立場もあるし
加えて王宮というものに
強い憧れを抱いているから。
それはもう崇拝する勢いで。
私が嫌がると
それは罪だくらいの扱いを受ける。
「そんな事より…」
私が切り出すと
ジャナはクッと息を詰めて俯いた。
何を言われるかなんて明白なのだろう。
「さっきの話を
聞かせてもらってもいいかしら?」
あの動揺の仕方はさすがに驚いた。
言葉がこんがらがっているジャナなんて
初めて見たもの。