第52章 スルタンコラボ更に追加 〜睡蓮の願い〜
「うま…」
大きく目を見開いて
天元はほぼ言葉を失った。
その反応が本物で、
それがまた嬉しくて
「でしょー⁉︎ジャナは天才なのよ」
何故か私がえっへんと胸を張る。
朝食の時にジャナが出してくれたあのパンを
私は天元に食べさせていた。
明日からまた公務の為に
他国へと向かう彼が
その別れを告げに、私の部屋を訪れたのは
とっぷりと日の暮れた頃の事だった。
冷たい風を避ける為、締め切った窓の向こうには
私が大好きになった美しい街並みが見える。
人々の暮らしを象徴する灯りに
建物のシルエットが煌々と照らし出されていた。
「アシルのパンケーキと張るな?」
意地悪く訊く天元の胸元をトンと押す。
「比べようの無いものを並べないで」
その2つはまったくの別物だ。
比べたりしたら申し訳ないくらいの代物なのだ。
私にとっては両方とも
かけがえのないものなのだから。
…ちょっと大袈裟?
いやいや、
そんな事はありません。
「まだ通ってんのか?」
何でもない事のように、
何でもなくない事を訊く天元。
気になってしょうがない、
そんなふうにしか見えないよ。
「通ってないよ。もう必要ないもの」
そう、もうアシルとの関係を
私が気にする必要はなくなった。
そんな事をしなくても
アシルの興味は別の所へと映ったのだ。
もう私を傷つける事も、
好きだと勘違いする事も無くなった事だろう。
私もひと安心だよ。
「もっと食べる?」
もうひと千切りしようしていた私の手を
「いや、もういい。ごちそーさん」
やんわりとやめさせて
さっきの私の言葉に
天元こそ安心したのか
優しい微笑みを浮かべた。
私は少しだけ残念に思いながら
そのパンをお皿へと戻した。
まだ私が反発していた頃に
天元が無理やり設置させた大きなソファに
2人で並んで座り…
パンの話を終えた事で
急に途切れてしまった会話に
私は少し戸惑った。
…何か、話題はないだろうか…?
頭をフル回転させているうちに
伸びてきた天元の腕に
簡単に捕まってしまった。