第50章 .☆.。.:..初心:*・°☆.
「睦?」
そっと呼ばれた。
優しい声。
私のだいすきな人の。
この人に自分の名前を呼ばれるのが
とても好きだという事に
ついこの間気がついた。
なのに私はそっぽを向いたまま、
「はい?」
って
そう短く答えるのが関の山。
どうしたらいいかわからない事だらけ。
今からこんな事で
この先私は、一体どうしたらいいんだろう。
私が
宇髄天元、という人を認識してから
淡い恋心を抱くまでに
そう時間はかからなかった。
こっちにはそんなつもりはなかったのに
どうしてそんな事になったのかと言えば
この人が常に全力で
私にぶつかって来たからに他ならない。
だけど
本当にどうでもいい人や嫌いな人なら
何をされてもやっぱりイヤだろうから
私がこうなったのは
結局どこか私にも
この人に惹かれる何かがあったわけで…
それを否定するつもりなんかないけれど
だけど…こんな気持ちを
私はみっともないくらいに持て余していた。
無言のまま歩き続けること小一時間。
この空気に耐えられなくなったのか
はたまた私を気遣ってくれたのか
宇髄さんは小さな茶屋に誘ってくれた。
そこで頼んだお団子にも
頂いたお茶にすら手をつけず
じっと一点を凝視めたまま
一切動かなくなった私を
宇髄さんは頬杖を突いてずっと眺めていた。
そんな折り…
はぁ、と
小さなため息が聞こえてドキッとした。
一気に現実に引き戻された私は
それでもそっぽを向いたまま。
少し時間が取れたからと
うちまで足を運んでくれた宇髄さんを
お散歩でもしませんかと連れ出したのは
他でもない、私自身だ。
家の中に2人きり、なんて
そんな状況には耐えられないと思ったから。
あまり見慣れない着流し姿。
気を引き締めるように引っ詰めた髪も
いつもと違ってふわりと下ろし
すっかりお休み気分なのか
漂う雰囲気はひどく穏やかで…
色気すら感じるその瞳にやられてしまい
普通に接する事が出来なくなっていた。