第9章 好敵手
それでも…
「じゃその理由とやらを話せ。
そしたら離してやるよ」
ぎゅっと抱き直す。
「聞いてくれるの?」
心配そうな声が返ってくる。
「あぁ。それから、
ちゃんと帰ってくるならな」
「帰って…?」
「お前が帰ってくるのはココだろ?」
俺の、腕の中。
力いっぱい抱きしめると、
甘えて擦り寄ってくる睦は
嬉しそうな顔をした。
俺が胸の内を晒せば、こいつはひどく素直になる。
「不死川さんが気になってしまう理由が
わかったような気がするんです。
…わかった、と、思う」
「…それは、俺にとってイイ方?」
あんまり深刻そうに言うから
ちょっとほぐしてやろうと甘えてみる。
睦はちょっと目を見開いて
くすっと笑った。
その方がいい。
笑っていて、ほしい。
「うん、いい方。すごく」
じゃあ、勘違いだったと言う事だ。
不死川を愛しているわけではないと。
ぴったりとはまるように、
俺の肩口に顔を埋めてくる睦。
…めずらし。
こんなことしてくるなんて、
よっぽどご機嫌なんだろう。
「…そうか。なら、行ってこい」
睦ははっとして俺を見上げた。
真意を探るような目を向けてくるから
「何だよ。別に突き放しちゃいねぇぞ?
しっかり話してこい」
「どっか、行っちゃわないですよね?」
「当たり前だろ」
「…うん…ありがとう宇髄さん」
嬉しそうに微笑んで、睦は出かけて行った。
…とは言っても。
ついていかねぇ手はないと思った。
他の男に会いに行くのに…
放っておけねぇ俺は、かっこ悪…?
いや、護衛って事にしよ。
辿り着いたのは睦の店のすぐ裏にある
小さな神社だ。
やけに冷え込む。
あいつあんな薄着で平気なのか。
俺は全く問題ないが、
あいつが寒そうだと寒くなってくる。
それにしてもだ、
不死川め、まるで示し合わせたかのように
ここにいやがった。
昨日の去り際に
約束をしているわけでもなかったのに
ここにヤツがいるという事はだ。
…逢瀬の場所、暗黙の了解、というワケだ。
いい気はしねぇな。
でもまぁ、睦が大丈夫というのだから。
気長に見守るとしますかね。