第45章 .☆.。.:.笑って。.:*・°☆.
おかしな所に感動していると、
「おいで、」
お蕎麦屋さんの暖簾に手をかけて
煉獄さんは私を手招きする。
私を呼ぶその声も、笑顔も、
慈愛に満ち満ちていて
感動を覚えるほどだ。
この人に誘われて断れる人間が
この世に居ようか…
——そう思ってはいたのだが。
「睦、よかったら
一晩泊まっていかないか!」
そう言われた時には、
とんでもない事を言い出す人だと
さすがに即座に断っていた。
お誘いの内容によっては
あの笑顔をもってしても
キッパリと断る人間がいる事の証明ができた。
煉獄さんは牛鍋の後のお蕎麦を、
私は玉子でとじたうどんを頂いた。
…ご馳走になってしまった。
この人の押しには、
……負ける。
そのくらいの経済力はあると
可愛くない態度でどれだけ主張したところで
まったく通用しないのだ。
煉獄さんの笑顔は時に
恐ろしいという事を知った。
私の話なんかまるで通らなかった。
笑顔でかわされた…
こんな事されては困るといくら言っても
大丈夫だと、それしか言わないのだ。
…
何が、大丈夫だったんだろう。
そこを考えていたのだけれど
さっき、お屋敷に来いと言われた事を
悩んでいると勘違いをした煉獄さんが、
「いや!おかしな意味では決してないぞ!」
唐突に否定してきた。
いやいや……
「…おかしな意味ってなんですか。
おかしかろうがおかしくなかろうが、
煉獄さんのお宅には参りません」
だいたいこんな時分に、
よそ様の…
そしてさほど仲が良いわけでもない…
しかも男性のお屋敷にお邪魔するなんて
あってはならない事だ。
宇髄さんに怒られるでは済まなそうだし。
「そうか!でも俺は来てもらいたい!」
なんだ、その子どもみたいなのは。
思わぬ所で押しが弱い…
そんなので、行かないからね…
「行きませんて…」
「このまま、
1人で帰るなんて淋しくはないか?」
淋しい?かなぁ?
と、
改めて考えてみるも…
「淋しく、ありません」
だって、いつもの事だ。
どうって事はない。
「そうか…。だがここで出会えたのも
何かの縁だとは思わないか?」