第44章 .☆.。.:.夏色.。.:*・°☆.
音楽の授業とはいえ、曲は曲。
しかも歌えるほど知っている曲だ。
つい口遊めば、
筆も気分も乗っていく。
さっきまでの
少し落ちていた自分とは打って変わって
ひとり自分の世界に浸れるくらいの
余裕ができた。
おかげで筆の運びが軽やかなものに変化する。
そしてさっきよりも浮いた心の分、
鮮やかな色味が
キャンバスに足されていった。
その時だった。
小さな歩幅。
多少浮かれたような歩き方の誰かが、
美術室の入り口で立ち止まった。
だが俺は気付かねぇフリ。
美術室には、鏡が置いてある。
自画像を描くために。
でもそれ以外に、姿見があるのだ。
それはうまいこと、
美術室の入り口を映して
俺の方を向いている。
だから、
誰が来たのかが、わかってしまった。
睦だった。
しかも、ものすごく嫌そうな顔をしやがって。
美術室に入ろうとした格好のまま
凍りついたかのようにその場に固まっていた。
どうも、俺の絵を、見てるような…?
絵、と言えるような代物ではないが。
しばらくそのままだった睦は
そのうち体制をゆっくりと変え
去ろうとし始めたようだった。
そこを狙って声をかけたのだ。
最初は拒否をしていた睦だったが
俺最終的にはの誘いに乗ってくれ、
今、俺の隣に座っていた。
ここの美術室には
固定された机はない。
モデルを中心に据えて
それを取り囲みデッサンすることもあるからだ。
自由に使えるのはいい。
真ん中にキャンバスを設置して
背もたれのない椅子に座っている俺の横に
同じく、その椅子を持ってきて座る睦。
興味深そうに
俺の持つ筆先を凝視めている。
「そんな見るモン?」
邪魔にならない程度に身を乗り出し
食い入るようにしている睦。
ヘンな気分だ。
「うん…。イヤ?」
「イヤ…でもねぇけど…。
でも俺、自分が描いてるモン未完成のうちに
誰かに見せた事ねぇや」
「…それは、どうして?」
「あぁ?別に。ワケなんかねぇけど。
でも途中経過なんて見ても
しょうがねぇだろ?
中途半端なとこ見られてるみてぇな…
模索してるとこ見せたって
かっこ悪くねぇ?」