第9章 好敵手
「睦ちゃん、今日疲れてるの?」
「…そうなのかなぁ?
でも私、今すごく楽しいよ。
蜜璃ちゃんと一緒に食べるの大好きなんだ」
「私も大好き!…
睦ちゃんが大丈夫ならいいの」
「うん、大丈夫。ありがとう。
蜜璃ちゃんは追加で注文する?」
私がにこっと笑うと
蜜璃ちゃんもにっこりしてくれる。
「するする!何にしようかなぁ」
おしながきをウキウキと眺める蜜璃ちゃん越しに
あの彼が出て行った店の出入口を見つめている事に
私は自分でも気づいていなかった。
次の日、お店も終え家に帰ると、
また明かりが灯っていた。
…ここはもう、私だけの家ではないようだ。
別に嫌ではないからいいけれど。
カギすらかかっていない戸をガラリと開けると
須磨さんが顔を覗かせた。
「おかえりなさーい!お疲れ様でした」
「ただいまー!」
最早おどろきもしない。
「今日はどうしたんですか?」
「新鮮なお魚が手に入ったんです!
今雛鶴さんがさばいてくれていますよ」
「お魚大好きです!うれしいなー、
私もいただいていいんですか?」
私が廊下を進んでいくと
須磨さんも嬉しそうについてくる。
「もちろんですー。
たくさんあるのでわけわけしましよ」
台所に入った所で雛鶴さんがこちらを向いた。
「あ、睦さんおかえりなさい!
ちょうど出来たところですよ!」
大きなお皿を差し出してくれる。
それを見た途端、私は急にお腹がすいてきた。
「お刺身だ!すごい!」
赤身も白身も、いろんな種類が
きれいに盛られている。
「雛鶴さん、職人さんみたいです!」
「ありがとうございます。
睦さんのためにがんばっちゃいました!」
「嬉しいですー。楽しみだなぁ」
「さ、お部屋に運ぶから、須磨、手伝って」
「はぁい」
両手いっぱいのお皿を持ち
2人は食卓に運んでくれる。
「睦さんは座っていて下さい。
お茶もお出ししますね?」
私が手伝う間もなく
料理でいっぱいになっていく食卓。
それを眺めながら、
「…まきをさんは?」
「裏口に居ますよ。
カマを焼いてくれています。
まきをはアレを焼くのが上手いんです」