第41章 輪廻 〜if〜 後
ハッと目を見開くと
もうダイニングのテーブルについていて、
目の前には本日の晩メシ、
海鮮丼が置いてあり、
しかもすでに口をつけた状態。
いつから食い始めていたのか
恐ろしいくらいに全く記憶になかった。
俺うがいしてたはずだったのに…?
テーブルを挟んで向かい側に座る睦は
とても言いにくそうにしていたが
ゆっくり俺の方を指差して
「めっちゃこぼしてるよ…?」
もう片方で布巾を差し出してくる。
……ふと見下ろすと
俺の服はびしょ濡れだった。
「……覚えがねぇんだけど」
「やばいって。怖すぎる。
せめて覚えててよ」
睦は本気で気味悪がって俺を見遣る。
ンなこと言われてもなぁ…。
俺は差し出された布巾を受け取り
自分の腹の辺りをポンポンと拭いた。
「コレ何?茶?」
「それならさすがに、
その時に気がつくでしょ…?」
…まぁ、熱そうだしな。
あんなんかけていたのなら
今頃俺は大やけどをしているだろう…
湯気の立つマグカップを眺めやり
ぼんやりと考える。
それにしても熱い緑茶をマグカップに注ぐあたり
睦だなと思わずにはいられなかった。
うちにも湯呑みのひとつやふたつ、
あると思ったんだがな…
「レモン水?」
仄かに爽やかな香りが鼻腔をくすぐる。
「フィンガーボールの水…」
海老を自分で剥けとのことで用意された
フィンガーボール。
人の食うものをあまり素手で触りたくないらしく
面倒だけど自分でやってくれと頼まれた。
「ヘェ。…へぇ⁉︎倒したのか俺?」
「……」
睦は困りきったように眉を寄せ
俺の様子を窺っていた。
だが、俺が睦の
次の言葉を待っているのがわかったらしく、
「多分…飲もうとしたんだよ」
静かに言葉を運んでくれる…
「お、…お?」
あまりにも衝撃的な事実に
俺は言葉が出てこなかった。
その存在を知らねぇヤツならつゆ知らず
どこの世界にフィンガーボールの水を
飲もうとするヤツがいる?
「でも、口に届く前に傾けちゃったから
全部こぼれちゃった」
「え、バカなのかな俺」