第39章 輪廻〜if
「私が何したって、
あの人は私の事なんか見ない。
褒めるどころか心配すらしてくれない。
私なんか…居るから利用する程度で、
居なかったら居ないで何とも思わないんだよ」
膝に目元を押し付けて
ずっと抱えて来ただろう思いを
睦は言葉にし始める。
「私が居なくなって困る理由は、
自由にできるお金がなくなるからなの…
お金が手に入れば、私じゃなくてもいいの」
はっきり喋りやがる。
…もう、泣いてはいない様子。
少しは前に進めただろうか。
すぐに癒える傷じゃねぇ。
でも、…
母親に対する、決心くらいはついただろうか…
「櫻井には申し訳ねぇがなぁ、…
はたから見てての意見として聞いてくれ。
あの女は、お前が執着する程の人間じゃねぇよ。
人としてまともなのはお前だし、
メンタルも遥かにお前のが上だ。
縋るべきは向こうであって、お前じゃねぇ。
お前は1歩踏み出すべきだ。
慕ってる母親を見捨てるのは迷うだろう。
そんなんでも家族だ、胸が痛むよな」
睦はただ黙って、耳を澄ませていた。
「言うのは簡単だ。わかってるよ。
でも俺はどうしても背中を押したい。
抜け出して欲しい」
「…私は、…」
ゆっくりと顔を上げて、
睦はどこを見るでもなく
ふわふわと視線を彷徨わせていた。
「…背中押されたら、はみ出しちゃうよ。
先生押すだけ押して、…その後は?」
「はみ出さねぇよ。ここに居るんだろ?
ちゃんと受け止めてやるから」
「ここ、居ちゃだめなんでしょ…」
「ダメなんじゃなくて、
周りの了承を得てからじゃなきゃ
ムリだって言ってんの。
色々問題山積みだろ?
教師と生徒だったり、未成年だったり、
…イロイロな面で被害者だしお前」
「………」
思考が一気に、あちこちに向いたのだろう。
睦は青ざめて俯いてしまった。
「…おとなは大嫌いなんだよな?」
「うん」
「でも、そうじゃねぇのもいるって
証明させろって、俺は言ったよな?」
「…うん」
「今が腕の見せ所だと思ってるよ。
櫻井の立場が危うくなる事は
絶対ぇねぇようにする」