第39章 輪廻〜if
「おぉ。俺の中で櫻井は
パンのイメージしかねぇからな。
何が好きか分からなかったし
…まぁこんだけありゃ
どれか食えるモンあんだろ」
キッチンからお茶を持ってきてくれる先生。
「だからって作りすぎだよ…」
フレンチトースト、ガーリックトースト、
ハンバーグにフライドポテトとサラダ、
の、プレートと、
鞠みたいなまんまるおにぎりと玉子焼き
鯖の味噌煮に金平牛蒡のプレート…
「櫻井が食わねぇ方を俺が食うから
好きな方選べ」
座るのを促すように椅子を引いてくれた。
私は特に何も考えずにそこにストンと座る。
玉子焼きが美味しそう。
でもフレンチトーストも美味しそう。
魚も好きだけど、お肉も好きなんだ。
……どうしたものか。
「…優柔不断か?」
椅子の背もたれに片肘を掛けて
私の答えを待ちきれなくなった先生が
くすくすと笑った。
笑ってる…
「…お腹空いた」
「ん?あぁ、だろうな。
寝るのも体力いるしなぁ」
「……お腹、すいちゃった…」
空かなくていいのに。
「お腹なんか空いて、
こんな美味しそうなの出てきたら食べちゃうよ」
「おぉ、食えよ?別に全部食ってもいい」
「こんなに、食べられないよ…」
やばい。
泣いてしまいそうだ。
私のため…?
そう思うだけで、もうだめだ。
生きたくない。
食べたら、生きながらえてしまうでしょ。
でも、死にたくない…
助けて欲しかったけど、
放っておいて欲しかったんだよ。
「なら半分こしようぜ」
私の変化には気づかないフリ。
先生は余裕の笑みで
「お前半分こ好きみてぇだし」
そう続けた。
「なんで…」
なんでわかった。
「すっげぇ嬉しそうだったからな。
きらっきらの目ぇしちゃって」
その時を思い出したのか
先生はくくっと喉で笑った。
「……うるさいな」
「照れんな照れんな。
なかなか可愛かったぞ」
笑いながらそれぞれのプレートの中身を
フォークできれいに半分こにしていく。
「きもい」
「おい」
軽口を叩きながら
先生の器用な指先を凝視めていた。