第39章 輪廻〜if
「まっったく覚えてねぇ…から、
伊黒には言わないように。
何言われるか想像しただけで寒気がする」
「……へぇ」
「何だその目は。教師を呆れたように見るな。
で、何でここでやってんだよ、
家帰ってからやりゃいいだろ」
家…
「…伊黒先生が今日中に出せって、」
「そっか…?伊黒もう帰ったけど?」
「えぇっ⁉︎早すぎでしょ‼︎」
「今日は用事があって
授業終わったらすぐ帰るって言ってたわけ。
デートでもすんのかね…」
「デート⁉︎そんな事の為に
仕事早退しそうもないじゃん!」
「そうだよな?なのに今日中に出せなんて事
余計に言いそうもねぇだろう?
伊黒は口うるせぇけどいい加減な事はしねぇよ」
「………」
「さぁ、とっとと帰れよ?
俺はまだ戸締りの確認あるし。
地味な作業だねぇ、俺様ともあろう者が…
まぁ当番とあっちゃあ、しょうがねぇけど」
ぶつくさ文句を言いながら
後ろ手に手を振って
宇髄先生は教室を出て行く。
何で私がそんな嘘をついたのか、
そんな嘘が何故必要だったのか、
その謎も解明しないまま去っていく…。
私のケガを知りながら、
スマホのメッセージの内容を見ておきながら
それでも何も訊こうともしない。
先生は悪くない。
間違ってもいない。
きっと、
手を差し伸べてくれようとしているんだろう。
だから私の周りを彷徨いているんだよね。
でも私が、それを跳ね除けるから…
必要としないから、
先生からもそれをしないんだ。
宇髄先生は中途半端なんかじゃない。
私の方が、…
関わるなと言ったくせに
助けてもらうのを待っているだけの私の方が
中途半端なんだ…。
先生、帰りたくないんだよ。
一昨日は何もなかった。
昨日は連絡を無視しちゃった。
2日も『仕事』がなかった事なんて
今までに1度も無かった。
今日帰ったらどんな目に遭うかなぁ?
そんなの、火を見るより明らか…って。
…ほら、
誰かに縋ろうとするから出来なくなる。
帰らなきゃいけないのに
帰りたくないなんて思うようになる。
そんな事をすれば
状況は悪化するばっかりなのに。
わかってたから、
諦めていたつもりだったのに…。