第38章 金魚の昼寝
なにこのやな感じの笑み…
「夢にまで出てきちまうくらい
感じてたんだもんな。そりゃある意味恐怖だわ」
「な…っ⁉︎」
「そっかそっか。気づかねぇとこで
そんなふうにされたら困るよなぁ?
いっつも照れて隠したがるとこぜぇんぶ
曝け出してるわけだから…」
「なに言ってるの⁉︎」
おかしな事を言い出した彼に
全身の血が顔に集まったような気がした。
「ほら、こんなに真っ赤になる睦が
あんな淫らに善がってたなんて…」
「やめて!」
「意識ねぇくせに、
喘ぎ声はいつもより激しい…」
「ばかッ‼︎」
すぐ横にあった天元の顔を
両手で思い切り押しやると
ぐきっ、とものすごい音がして…
「いっ…てぇ‼︎」
天元が叫(あめ)く。
やりすぎた、とは思ったけれど、
あまりに恥ずかしい事を言われて
正気を失っていた私は
もう彼から距離を取る事しか考えていなかった。
負傷したかどうかは定かではないけれど、
とりあえず怯んでいるうちに、
私に絡みつく腕からするりと抜けて
即座に立ち上がる。
「おい睦!言いすぎた!
悪かったから、」
私を捕まえようと伸びてくる大きな手を
すんでのところで見事によけて
部屋を出るため襖へと向かった。
「待てって!もう言わねぇから…!」
もう?
無理無理。
だってもう言われちゃったもん。
聞かされちゃったんだもん。
怒ってるんじゃないの。
恥ずかしいだけ。
だから顔を見られないし見せられない!
「大丈夫だから…!」
そのひと言を言うのが関の山。
逃げるように廊下に出る私を
天元は慌てて追い、
「大丈夫って何がだ!こら逃げんな!
こっち向け、謝らせろ」
すごい勢いで迫ってくる。
「いやぁだー‼︎来ないでよ‼︎」
「やっぱ怒ってんだろ⁉︎こんにゃろ、
ンな時ばっかうまいこと逃げやがって…!」
「ほっといて!」
「ほっとけるか!」
「怒ってないからぁ!」
「なら余計だ。待たねぇか睦!」
そんな言い合いをしながら
屋敷中逃げ回る私を天元はしつこく追い回し、
そうして
私たちの鬼ごっこはずっと続くのだった。
☆彡