第1章 嚆矢濫觴
翌日、朝からお店を開けて、
掃除や片付けをしていると、
「邪魔するぜ」
また、宇髄サンが現れた。
「…おはようございます」
「…何か言いたそうだな」
……
「今日はどういったご用で?」
「お前に会いに」
宇髄サンは何でもない事のように言った。
「私に…?何でしょう?」
何か作って欲しい物でもあるのかな。
そんな事を思っていると、
店の前を、蜜璃ちゃんが通る。
私に気づくと、にっこり笑って近づいてきてくれる。
「睦ちゃん、おはよう!」
昨日の事は、なかった事にしてくれているようだ。
私の悲しい心に気づいてくれたのかな。
何て優しいの。
そこで私は、昨日作った髪留めの事を思い出す。
「蜜璃ちゃん!渡したい物があるの」
私は慌てて、手荷物の中から、
桜の髪留めを取り出す。
「蜜璃ちゃんの為に作ったの。
昨日のお詫び、受け取ってくれる?」
それを手渡した途端、
蜜璃ちゃんは目を輝かせて
「わぁ!ありがとうっ!嬉しい!
可愛いっ!すごいわすごいわ!
見て見て伊黒さん!」
嬉しそうに、隣に立つ小柄な男性に見せる。
「甘露寺に似合いそうだな」
などと言って、蜜璃ちゃんの髪につけてあげている。
「どうかしら⁉︎似合ってますか?」
いつも以上にテンションの高い蜜璃ちゃんに、
「あぁ」
とクールに返事をする伊黒サン。
「さぁ、そろそろ行くぞ」
その伊黒サンは、
私と宇髄サンを完全に居ない人扱いして、
蜜璃ちゃんを連れて去ろうとする。
「あ、はい!じゃ睦ちゃん、またね!
宇髄さんも、失礼します」
手を振って伊黒サンを追う蜜璃ちゃん。
人混みに消えるまで、後ろ姿を眺めていた私は、
「…あの…、宇髄サン…」
「あぁ?」
「…大丈夫なんですか、今の」
「何がだ?」
「蜜璃ちゃん、行っちゃいましたけど…」
しかも、他の男性と2人で。
「いいんじゃねえの?」
「え、いいんですか?
宇髄サン、叶わぬ恋してるんですか?」
真剣に心配した私に、
「お前、昨日から勘違いしてんだよ」
呆れたような顔で向き直る。
勘違い…?
「何を?」
「お前、俺が甘露寺を好きだと
本気で思ってんのか?」
「思ってますよ。だって…」
だって、そんな感じだった、よね?